プレアヴィヒア寺院

プレアヴィヒア寺院：歴史と国境を巡る聖地

プレアヴィヒア寺院は、カンボジアとタイの国境に位置するダンレク山脈の断崖絶壁に建つ、壮麗なヒンドゥー教寺院です。その歴史は9世紀にまで遡り、クメール王朝によって建設されました。後に増築を重ね、11世紀には現在の姿の基礎が築かれたとされています。2008年にはユネスコの世界文化遺産に登録され、その文化的価値が世界的に認められました。

寺院の概要

寺院の名前「プレアヴィヒア」は、クメール語で「神聖な寺院」を意味し、サンスクリット語に由来します。タイ語では「プラーサート・プラウィハーン」と呼ばれ、こちらも同様に「神聖な寺院」を意味します。標高625mの断崖絶壁に位置し、眼下には素晴らしい眺望が広がります。アンコール・ワットからは北東に約120km離れています。

カンボジアのプレアヴィヒア州に属しますが、タイ側からのアクセスが容易だった時期もありました。しかし、2008年の国境紛争以降はタイ側からの参道が封鎖され、現在はカンボジア側からのみアクセス可能です。シェムリアップからアンロン・ヴェンを経由する道路が整備されたため、日帰りでの訪問も可能になりました。

建築と歴史

9世紀に創建された当初は、ヒンドゥー教のシヴァ神を祀る寺院でした。現存する最古の建築物は、10世紀初頭のコ・ケー時代のものです。その後、数世紀にわたり増改築が繰り返され、10世紀末期のバンテアイ・スレイ様式も見られます。現在見られる寺院建築の大部分は、11世紀前半のスーリヤヴァルマン1世と12世紀前半のスーリヤヴァルマン2世の治世に増築されたものです。寺院内には、スーリヤヴァルマン2世が祭祀を学び、師であるバラモンに像などを寄進したという銘文が残っています。ヒンドゥー教が衰退した後、プレアヴィヒア寺院は仏教寺院となりました。

寺院の構造

プレアヴィヒア寺院は、クメール王朝の他の寺院建築とは異なり、東西軸ではなく南北軸に沿って建てられています。全長は約800mで、北側が平地で、現在は国境線が走っています。参道は丘を登るように南に伸びており、その先に伽藍があります。南端は北端よりも120m高くなっています。これは、古代インドの世界観で中心にそびえる聖なる山である須弥山を模した形式です。参道には5つの楼門があり、北側から順に第5楼門、第4楼門…と便宜的に呼ばれています。

各楼門は階段の上に建てられており、眺望が変化します。また、楼門をくぐらないと次の中庭が見えないような工夫が凝らされています。第5楼門はコ・ケー様式で、朱色の色彩が残っています。第4楼門はアンコール・トムのバプーオンやクリアンと同じ様式で、南側に三角形の切妻壁があります。この切妻壁には、乳海攪拌のクールマが描かれており、プレアヴィヒア寺院の傑作の一つとされています。第3楼門は最大規模で、2つの側門があります。最後に2つの中庭を経て境内となります。外側の中庭には経蔵があります。

国境問題と紛争

プレアヴィヒア寺院の帰属は、カンボジアとタイの間で長年の懸案事項でした。1962年に国際司法裁判所がカンボジア領であると裁定しましたが、その後も国境を巡る紛争が繰り返されてきました。

2008年には、世界遺産登録を巡り、両国間で軍事的な緊張が高まりました。タイ側が当初は登録を支持しましたが、その後国内の反対により態度を翻しました。カンボジアが不法侵入を理由にタイ人を拘束したことをきっかけに、両国が軍隊を派遣して対峙しました。一時的に国連安保理にも訴えましたが、後に取り下げられました。その後、両国外相が会談し軍隊の撤退に合意しましたが、実現には至りませんでした。

2011年には、寺院を巡る大規模な武力衝突が発生し、多数の死傷者と避難民が出ました。その後も緊張状態が続きましたが、タイの新首相がカンボジアを訪問し、紛争解決に向けた動きが見られました。
2013年には、寺院周辺の土地についても国際司法裁判所がカンボジアに帰属すると判断を下しました。

世界遺産としての価値

プレアヴィヒア寺院は、以下の基準を満たし世界遺産に登録されました。

* (1) 人類の創造的才能を表現する傑作であること。

プレアヴィヒア寺院は、その建築美、歴史的背景、そして国境問題を抱える複雑な経緯を持つ、まさに人類の宝といえるでしょう。

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