プログレスMS-09

プログレスMS-09は、ロシア連邦宇宙局ロスコスモスが運用する国際宇宙ステーション（ISS）への無人補給船であり、プログレス補給船としては161回目の飛行にあたる機体です。正式名称はロシア語で「Прогресс МC-09」と表記され、製造番号は437です。NASAでは区別のため「プログレス70P」とも呼称されました。

この機体は、従来のプログレスM型補給船をベースに、航法システムや通信機能、安全性を大幅に近代化したプログレスMSシリーズの改良機です。2015年12月に初めて打ち上げられたプログレスMS型は、その後も継続的に改良が加えられてきました。その特徴としては、軌道上で最大4個の小型衛星放出コンテナ（合計24ユニットのCubeSatを収容可能）を展開できる新しい外部コンパートメントが追加されたこと（これはプログレスMS-03で初めて搭載されました）や、ドッキングおよび密閉機構の電気モーターに予備システムを追加することで冗長性を高め、信頼性を向上させた点が挙げられます。また、貨物コンパートメントの壁にパネルを追加することで、微小隕石に対する防護力も強化されています。

さらに、通信面では、ロシアのルーチ中継衛星と連携できる機能が導入され、これにより地上局の視野外であってもテレメトリーデータの送信や機体へのコマンド送信が可能となりました。航法機能も進化し、GNSS（全地球測位システム）を用いた自律航法により、地上局からの軌道決定指示を待つことなく、自身の状況ベクトルや軌道パラメーターを正確に決定できるようになりました。宇宙ステーションとの間では直接的な無線データ交換が可能になり、リアルタイムでの相対的な位置把握（相対ナヴィゲーション）を実現しています。ドッキング操作時には、新しいデジタル無線システムによって、テレビカメラの映像視野が強化され、より確実なドッキングを支援します。加えて、旧来のウクライナ製Chezara Kvant-V無線システムやアンテナフィーダーシステム、そしてクルスAランデブーシステムは、ロシア製の統合コマンド・テレメトリー・システム（UCTS）およびクルスNAデジタルシステムへと置き換えられました。クルスNAシステムは、特にドッキング時の信頼性と安全性を高める設計となっています。SUD飛行管制システムはGLONASS衛星を利用した自動軌道測定を可能にし、通信システムはルーチ5データ中継衛星の使用に合わせて更新されました。微小衛星防護能力、照明システム、ドッキングポートなども強化されています。

プログレスMS-09の打ち上げは、2018年7月9日にカザフスタン共和国にあるロシアのバイコヌール宇宙基地から行われました。使用されたロケットはソユーズ2.1aです。このミッションで特筆すべきは、国際宇宙ステーションへのドッキングまでに要した時間が、打ち上げからわずか3時間（地球を約2周）という驚異的な短さであったことです。これは、当時の宇宙ステーションへの軌道ランデブーとしては史上最速記録であり、事前にNASAがその可能性を確認し注目されていました。

打ち上げ成功後、プログレスMS-09は予定通り超高速ランデブーを実施し、2018年7月10日午前1時31分（協定世界時UTC）にISSへのドッキングを完了しました。ドッキング場所は、国際宇宙ステーションのロシア側区画にあるピアース・モジュールの地球側に面した（天底側）ポートでした。

国際宇宙ステーションへの補給任務において、プログレスMS-09は総計2,450kgの貨物と物資を輸送しました。この貨物の内訳は、ISS内部で保管・使用される与圧貨物が1,275kg、ISSの姿勢制御や軌道維持に用いられる推進剤が705kg、クルーが消費する酸素と空気が50kg、そして飲料水や様々な実験に用いられる水が420kgでした。また、プログレスMSシリーズが持つ機能として、小型衛星CubeSatを搭載・放出する能力もあり、MS-09でもCubeSatが運搬された可能性があります。

国際宇宙ステーションでの任務を終えたプログレスMS-09は、2019年1月25日12時55分（UTC）にISSからドッキングを解除し分離しました。その後、機体は制御された軌道に乗せられ、同日遅くに地球大気圏へと再突入しました。大気圏通過時の高熱により機体の大部分は燃え尽き、残った破片は安全のため、事前に設定された南太平洋上の特定の海域に落下しました。プログレスMS-09は、その高速ドッキング能力により、ISSへの補給ミッションの効率化に新たな可能性を示した機体でした。

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