プロビデンス (スループ)

HMS プロビデンス（HMS Providence）

プロビデンス号、あるいはプロヴィデンス号の名で日本でも知られるHMSプロビデンスは、1791年にイギリス海軍に加わったスループ型の軍艦です。ロンドンのブラックウォール・ヤードで建造され、同年中に就役しました。

船歴

パンノキの輸送

プロビデンスの最初の重要な任務は、1791年から1794年にかけて行われたパンノキの苗木輸送でした。この航海では、バウンティ号の反乱で知られるウィリアム・ブライが艦長を務めました。当時の大英帝国は、南太平洋のタヒチ島で発見されたパンノキを、カリブ海の英領西インド諸島にあるプランテーションで働く黒人奴隷たちの新たな食料源として利用することを計画しており、その苗木の移植を試みていました。ブライ艦長は、1787年にもバウンティ号の指揮官として一度この任務に挑みましたが、途中で乗組員の反乱に遭遇し、達成できませんでした。プロビデンスでの二度目の挑戦は成功を収め、無事パンノキの苗木を目的地に運ぶことができました。

北大西洋から太平洋への探検

1795年、プロビデンスは新たな任務のため、ウィリアム・ロバート・ブロートン艦長の指揮のもと出港しました。この任務の目的は、バンクーバー探検を支援し、北大西洋の未開の海域を調査することでした。プロビデンスは大西洋を横断して南米のブエノスアイレスに立ち寄り、難所として知られるホーン岬を回って太平洋へと進出。北米大陸沿岸をシトカまで北上する広範な航海を行いました。しかし、ブロートン艦長はバンクーバー地域での探検作業は既に完了していると判断し、針路を南にとってモントレーへと向かいました。

その後、プロビデンスは広大な太平洋を横断する航海に出発し、1795年12月16日には、赤道付近の無人島に到達しました。ブロートン艦長はこの島をカロリン島と命名しました。さらに航海を続け、アジア大陸東岸に到達すると、揚子江河口から黄海へと入り込み、詳細な探検測量を開始しました。この航海中、プロビデンスはイギリス船としては初めて朝鮮半島沿岸を航海し、その地理情報を記録するという功績を残しました。

日本への来航

1796年（寛政8年）夏、プロビデンスは日本の奥羽地方の南部に達しました。その後、北上して北海道の内浦湾（噴火湾）に入り、8月14日、その沿岸にあったアプタ（現在の北海道虻田郡洞爺湖町付近）に到着しました。これが、プロビデンス号による日本への歴史的な初上陸となりました。当時、蝦夷地を巡視して帰途についていた松前藩の家老、松前左膳はこの知らせを受け、急遽長万部からアプタへ引き返してプロビデンスの応接にあたりました。しかし、言葉が通じず、船の来航目的を明確にすることはできませんでした。

プロビデンスは8月17日にアプタを抜錨し、沿岸の測量を行いながら航海を続け、9月28日には室蘭港に到達しました。ここで、松前藩の藩医であった加藤肩吾らがプロビデンス号の乗組員と面会しました。加藤はわずかにロシア語を理解することができたため、プロビデンス号に乗り組んでいたロシア人水夫を通訳としてコミュニケーションを図ることが可能となり、互いに地図を交換するに至りました。また、この航海の途上で乗組員のハンス・オルソンが事故により亡くなったため、室蘭港沖の大黒島に埋葬されました。この出来事にちなんで、ブロートン艦長は大黒島を「オルソン島」と命名したと伝えられています。

10月1日、プロビデンスは室蘭港を出て、千島列島への探検を目指しました。新知島まで到達したものの、厳冬期の気候に阻まれ、それ以上の探検を断念せざるを得ませんでした。その後、太平洋沿岸を測量しながら南下し、12月にはマカオへ寄港しました。

沈没

マカオに寄港したブロートン艦長は、北方探検を継続するためにスクーナーを1隻購入し、これを僚船としました。プロビデンスとこの僚船の2隻は再び北方に向けて出航しましたが、1797年5月16日、プロビデンスは現在の沖縄県宮古島（池間島）沖にある広大なサンゴ礁域、八重干瀬で座礁し、そのまま沈没してしまいました。幸い、艦長以下乗組員は僚船に乗り換えることができ、難を逃れました。ブロートン艦長は僚船で一旦マカオに戻った後、北方探検の意志を失わず、再び出航。その航海の途上で那覇港にも寄港しています。

もう一度検索