ヘンリエッタ・スワン・リービット

ヘンリエッタ・スワン・リービット：宇宙の距離を測った女性天文学者

ヘンリエッタ・スワン・リービット（Henrietta Swan Leavitt, 1868年7月4日 - 1921年12月12日）は、20世紀初頭に活躍したアメリカの女性天文学者です。彼女は、変光星の一種であるケフェイド変光星の変光周期と光度との間に密接な関係があることを発見し、天文学における宇宙観の拡大に大きく貢献しました。

生涯

学業

1868年、牧師の娘としてマサチューセッツ州ランカスターで生まれたリービットは、学問を重んじる家庭環境で育ちました。1885年にオーバリン大学に入学後、ラドクリフ・カレッジ（ハーバード大学と提携した女子大学）で人文科学を中心に学び、4年次に初めて天文学の講義を受けました。1892年に文学士号を取得して卒業しました。

天文学の世界へ

大学卒業後、髄膜炎の影響で聴覚を失ったリービットですが、1893年にハーバード大学天文台で無給助手として働き始めました。当時の天文台長エドワード・ピッカリングは、天体写真の解析プロジェクトを進めており、リービットは写真データの整理を行う「計算手」として星の等級を記録し、変光星を探し出す仕事に従事しました。当時、女性が科学分野で働く機会は限られていましたが、リービットは地道な努力を続けました。

変光星に関する発見

1902年、リービットはハーバード大学天文台に復帰し、変光星の調査を本格的に再開しました。小マゼラン雲の変光星を調査する中で、明るい変光星ほど変光周期が長いという重要な関係を発見しました。1908年に発表した論文でこの関係を指摘し、後の天文学研究に大きな影響を与えました。1912年には、小マゼラン星雲にある25個の変光星について、明るさと変光周期のグラフを作成して発表しました。

晩年

1912年以降、リービットは恒星の等級測定の基準となる北極標準星の等級を判定する作業に従事しました。しかし、ウィルソン山天文台の天文学者ハーロー・シャプレーはリービットの変光星研究に関心を寄せ、共同研究を提案しました。1921年、リービットは天体測光の責任者となりましたが、胃がんにより53歳で亡くなりました。

研究内容

変光星の研究

リービットは、ハーバード大学天文台が所有する天体写真から変光星を探し出す作業を行いました。特に、小マゼラン雲にあるケフェイド変光星に着目し、明るい星ほど変光周期が長いという関係を発見しました。これは、ケフェイド変光星がすべて同じ小マゼラン雲に存在するため、絶対等級の差がそのまま見た目の光度の差として現れると考えられたからです。この発見は、天体までの距離を測定する上で画期的な進歩をもたらしました。

標準星の測定

リービットは、北極星近くにある96個の星の光度を測定し、等級を見直すというプロジェクトにも取り組みました。これは、全天の星の明るさの基準を定めるための重要な作業であり、彼女の測定結果は長年にわたって使用されました。

影響

リービットの変光星に関する論文は、発表当時はあまり注目されませんでしたが、デンマークの天文学者アイナー・ヘルツシュプルングがその重要性に気づき、星までの距離測定に活用しました。ヘルツシュプルングは、リービットが発見した関係を使って小マゼラン雲までの距離を推定し、宇宙の大きさを知るための重要な一歩を踏み出しました。また、エドウィン・ハッブルは、アンドロメダ星雲内の変光星を観測し、リービットの法則を使って地球からの距離を計算した結果、アンドロメダ星雲が銀河系の外にある別の銀河であることを明らかにしました。これにより、宇宙の広大さが改めて認識されることとなりました。

人物

リービットは、生前は目立たない存在でしたが、現在ではその業績と、当時数少ない女性天文学者であったこと、聴覚障害を持っていたことなどから、注目を集めています。同僚のソロン・アーヴィング・ベイリーは、彼女を「家族に深い愛情を注ぎ、自らより友人のことを思い、信念を曲げず、信仰と教会に心を捧げた」人物として追悼しています。

ヘンリエッタ・スワン・リービットの発見は、宇宙の距離を測る上で不可欠なものとなり、現代天文学の発展に大きく貢献しました。彼女の功績は、後世に語り継がれるべき偉業と言えるでしょう。

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