ヘンリー・ステュアート (グロスター公)

グロスター公ヘンリー・ステュアートは、1640年7月8日にイングランド国王チャールズ1世と王妃ヘンリエッタ・マリアの四男として誕生しました。彼は、清教徒革命（イングランド内戦）から王政復古という激動の時代を生きたステュアート朝の王族でした。兄には後のチャールズ2世とジェームズ2世、姉にはオラニエ公ウィレム2世妃メアリー・ヘンリエッタ、エリザベス、妹にはオルレアン公フィリップ1世妃ヘンリエッタ・アンがいました。

幼少期、ヘンリーは激動の時代に巻き込まれます。1642年に父王チャールズ1世が議会と対立し、ロンドンを離れる際、わずか2歳だったヘンリーは次姉エリザベスと共にセント・ジェームズ宮殿に残されました。これが運命を左右し、第一次イングランド内戦で議会派の人質となります。ノーサンバランド伯アルジャーノン・パーシーに養育されたヘンリーは、議会派から次期国王に擁立されるという噂も立ちました。しかし、内戦は議会派の勝利に終わり、ヘンリーは人質生活を強いられます。

1646年には、次兄ジェームズと共にセント・ジェームズ宮殿へ送られ、その後も次期国王擁立の噂が絶えませんでした。しかし、ワイト島・カリスブルック城での軟禁生活を余儀なくされ、1650年には次姉エリザベスが亡くなるという悲劇に見舞われます。1652年、ヘンリーはイングランド共和国によって釈放され、長姉メアリー・ヘンリエッタの嫁ぎ先であるオランダへ送られます。その後、長兄チャールズと次兄ジェームズが亡命していたフランス・パリへ渡り、母や妹ヘンリエッタ・アンと再会し、兄弟姉妹は初めて顔を揃えることになりました。

1654年、母からカトリックへの改宗を勧められますが、ヘンリーはこれを拒否し、長兄が移住していたドイツ（神聖ローマ帝国）のケルンへ移り住みました。1658年には、次兄やコンデ公ルイ2世と共にスペイン軍に参戦し、砂丘の戦いで敗れ、危うく捕虜になりかけたものの、脱出に成功しました。そして1660年、王政復古の機運が高まると、イングランドからの艦隊に乗り込み、兄弟たちと共に帰国します。5月29日にロンドンに帰還し、王政復古を迎えますが、そのわずか数ヶ月後の9月13日、天然痘により20歳という若さでこの世を去りました。

ヘンリーの生涯は、激動の時代に翻弄され、若くして亡くなった悲劇的な王族の姿を今に伝えています。彼は、政治的な思惑や宗教的な対立が複雑に絡み合った時代の中で、その短い生涯を駆け抜けました。彼の早すぎる死は、ステュアート家の歴史に深い影を落としました。


参考文献:
森護『英国王室史話』大修館書店、1986年。
友清理士『イギリス革命史（上）』研究社、2004年。
シセリー・ヴェロニカ・ウェッジウッド著、瀬原義生訳『イギリス・ピューリタン革命―王の戦争―』文理閣、2015年。
サミュエル・ローソン・ガードナー著、小野雄一訳『大内乱史Ⅰ:ガーディナーのピューリタン革命史』三省堂書店、2011年。
* サミュエル・ローソン・ガードナー著、小野雄一訳『大内乱史Ⅱ（上）:ガーディナーのピューリタン革命史』三省堂書店、2018年。

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