ヘンリー八世の六人の妻

リック・ウェイクマン『ヘンリー八世の六人の妻』

1973年に発表されたリック・ウェイクマンのソロデビューアルバム『ヘンリー八世の六人の妻』は、イングランド王ヘンリー八世の6人の妻たちをテーマにした壮大なコンセプトアルバムです。ウェイクマン自身が作曲、編曲、プロデュースを手掛け、LP両面で全6曲という構成で、各楽曲がそれぞれの妻を表現しています。

制作背景

当時イエスのメンバーだったウェイクマンは、ストローブス在籍時にA&M[[レコード]]と契約を結んでいました。その契約履行のため、このアルバムを制作することになります。テーマにヘンリー八世の妻たちを選んだのは、ナンシー・モリソン著の『ヘンリー八世の私生活』という書籍がきっかけでした。ツアー中の飛行機内で同書を読んだウェイクマンは、それぞれの妻を題材にした楽曲を作ることを思いついたそうです。

楽曲について

「アラゴンのキャサリン」は、元々イエスのアルバム『こわれもの』に収録予定だった「Handle With Care」をベースに、新しい要素が加えられています。そのため、この曲にはイエスのメンバーが参加している部分とそうでない部分があります。

「キャサリン・ハワード」のピアノによる導入部のメロディは、ウェイクマンがキャット・スティーヴンスの「雨にぬれた朝」で演奏したものが原案になっています。ウェイクマンが当時書いていた未発表曲の一部をピアノで弾いたところ、プロデューサーのポール・サミュエル＝スミスに気に入られ、導入部、間奏部、終結部に演奏することになったそうです。この未発表曲が後に「キャサリン・ハワード」として完成しました。

「ジェーン・シームーア」では、ロンドンの教会に設置されているパイプオルガンが使用され、楽曲に荘厳な雰囲気を与えています。

ジャケットと販売

ジャケット写真は、ロンドンのベイカー・ストリートにある蝋人形館で撮影されました。しかし、撮影時にカーテンの閉じ方が不十分だったため、一番左の女性の蝋人形の後ろに、当時のアメリカ大統領リチャード・ニクソンの蝋人形の横顔が写り込んでしまうというハプニングもありました。ウェイクマンは、レコード会社から歌詞のないコンセプトアルバムという理由で販売枚数を制限されましたが、結果的にこのアルバムは発売から5年間で600万枚以上を売り上げる大ヒットとなりました。

参加ミュージシャン

本作には、イエスのクリス・スクワイア、スティーヴ・ハウ、アラン・ホワイトをはじめ、ストローブスのデイヴ・カズンズ、デイヴ・ランバート、元イエスのビル・ブルーフォードなど、多くのミュージシャンが参加しています。さらに、パーカッション奏者やコーラス隊も加わり、豪華な布陣となっています。ウェイクマンは、楽曲ごとに最適なミュージシャンを起用するため、少人数での制作ではなく、曲ごとにメンバーを替えたと語っています。

トリビア

ウェイクマンは後に、パイプオルガンを使用した教会に、オルガンの修繕費用として寄付を行っています。

リマスター盤

1990年にCDリマスター盤が発売され、音質が向上しました。さらに、2015年にはCDリマスター盤とハイレゾ音源、4ch音源を収録したDVDオーディオの2枚組セットが発売されています。

収録曲

サイド1
1. アラゴンのキャサリン
2. クレーヴのアン
3. キャサリン・ハワード

サイド2
1. ジェーン・シームーア
2. アン・ブーリン
3. キャサリン・パー

パーソネル

リック・ウェイクマンは、ミニモーグ・シンセサイザー、メロトロン、ピアノ、ハモンドオルガンなど、多様な楽器を演奏しています。各楽曲には、以下のようなミュージシャンが参加しています。

アラゴンのキャサリン：クリス・スクワイア、レス・ハードル、マイク・イーガン、スティーヴ・ハウ、ビル・ブルーフォード、レイ・クーパー、ライザ・ストライク、バリー・セント・ジョン、ジュディ・パウエル
クレーヴのアン：デイヴ・ウィンター、マイク・イーガン、アラン・ホワイト、フランク・リコッティ
キャサリン・ハワード：チャス・クロンク、デイヴ・ランバート、バリー・デ・スーザ、フランク・リコッティ、デイヴ・カズンズ
ジェーン・シームーア：アラン・ホワイト
アン・ブーリン：レス・ハードル、マイク・イーガン、ビル・ブルーフォード、レイ・クーパー、ライザ・ストライク、ローラ・リー、シルヴィア・マクニール
キャサリン・パー：デイヴ・ウィンター、マイク・イーガン、アラン・ホワイト、フランク・リコッティ

ライブDVD

2009年には、ヘンリー8世の戴冠500年を記念して、ハンプトン・コート宮殿で、ウェイクマンがオーケストラや合唱団と共に全曲を演奏するイベントが開催されました。この模様はライブDVDとしても発売されています。

このアルバムは、ロックとクラシック音楽の要素を融合させ、壮大な世界観を作り上げています。ウェイクマンの音楽的才能と、豪華なミュージシャンたちの演奏が一体となり、時代を超えて愛される名盤となっています。

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