ペリシテ人による聖櫃奪取

ペリシテ人による聖櫃奪取事件

旧約聖書の『サムエル記』に記されているペリシテ人による聖櫃奪取事件は、イスラエルとペリシテ人との間で起きた重要な出来事です。この事件は、イスラエルにとって大きな敗北であり、契約の箱という神聖な宝が敵の手に渡るという衝撃的な出来事でした。

戦いの背景

戦いの前、イスラエル軍はエベン・エゼルに、ペリシテ軍はアフェク（現在のアンティパトリス付近）にそれぞれ陣を敷いていました。エベン・エゼルとアフェクの間で起きた戦闘で、イスラエル軍はペリシテ軍に大敗を喫し、その結果、契約の箱がペリシテ人の手に奪われることになりました。

契約の箱は元々シロの神殿に安置されていましたが、戦いの勝利を願うために戦場に持ち込まれました。しかし、結果は惨敗であり、大祭司エリの息子であるホフニとピネハスも戦死、さらに契約の箱が奪われるという、イスラエルにとって最悪の事態となりました。契約の箱が奪われたという知らせを聞いた大祭司エリは、その衝撃で座から転げ落ちて死んでしまい、ピネハスの妻は産んだ子にイカボド（「栄光はどこへ」の意）と名付け、その後自身も命を落としました。

奪取後の展開

契約の箱がペリシテ人の手に渡った後、最初に安置されたのはアシュドッドのダゴン神殿でした。しかし、その日の翌朝、ダゴンの像が契約の箱の前でうつ伏せに倒れているのが発見されました。像を元の位置に戻しても、翌朝には再び倒れており、今度は頭部と両腕が破壊されていました。この出来事は、契約の箱が持つ神聖な力とペリシテ人の神ダゴンの無力さを象徴しています。

その後、契約の箱はペリシテ人の各都市、アシュドッド、ガザ、エクロンへと移動されました。しかし、契約の箱が移動するたびに、その地の人々は腫物によって苦しめられました。この災いは「主の手」によるものと解釈され、ペリシテ人たちは契約の箱を忌み嫌うようになりました。

A.スティラップは、これらの災いの程度が時間経過とともに増していると指摘しており、アシュドッドでの腫物、ガザでの腫物と騒ぎ、エクロンでの恐ろしい騒ぎと腫物というように、罰が厳しさを増していることを指摘しています。

ペリシテ人たちは、この災いを鎮めるために占い師に相談し、その結果、ペリシテ人の五人の支配者を象徴する五つの金の腫物と五つの金のネズミの像を製作し、それらをイスラエルの神への罪の供え物としました。これらの供え物を契約の箱と一緒に車に乗せ、まだ軛をつけたことのない二頭の牛に引かせたところ、契約の箱はベト・シェメシュに到達し、その後キルヤト・エアリムの家に長期間安置されることになりました。

解釈

契約の箱の奪取に関する物語には、預言者サムエルの名前が登場しません。ビル・アーノルドは、この物語が「契約の箱の力を讃えるため」であると述べています。また、複数の学者は、サムエル記上4章から6章とサムエル記下6章の記述を合わせて、ダビデの台頭や申命記に記述された歴史への合流を示す古い起源を表していると考えています。

ロバート・アルターは、サムエル記上4章22節を「栄光はイスラエルから追放された」と解釈し、ペリシテ人による聖櫃奪取は一種の流[[罪]]であると主張しました。一方、ピーター・ライトハートは、イスラエル人は流[[罪]]に値したが、代わりに契約の箱が追放されたとし、この出来事を通じて「神は（契約の箱、あるいは栄光を）追放し、神の民に対する契約の呪いを引き受けた」と述べました。さらに、ライトハートは、ペリシテ人による聖櫃奪取と出エジプト記に記された十の災いの間に多くの共通点を見出し、契約の箱が疫病を引き起こし、ペリシテ人の神々を貶め、最終的には宝物を返還させたとしています。実際に、ペリシテ人の占い師は、サムエル記上6章6節で出エジプトの際の災いに言及しています。

このように、ペリシテ人による聖櫃奪取事件は、単なる軍事的な敗北だけでなく、神の栄光と契約の重要性、そして神の民の罪と贖いの問題を深く考察する上で重要な出来事として、旧約聖書の読者によって読み継がれています。

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