ペルセウスとアンドロメダ (ティツィアーノ)

ティツィアーノ作「ペルセウスとアンドロメダ」

ティツィアーノ・ヴェチェッリオが1554年から1556年にかけて制作した油彩画『ペルセウスとアンドロメダ』は、ギリシア神話の英雄ペルセウスが、海の怪物に生贄として捧げられようとしていたアンドロメダを救出する場面を描いた作品です。本作は、スペイン国王フェリペ2世の依頼で制作された神話画連作《ポエジア》の一部であり、175cm x 189.5cmという堂々たるサイズで、ティツィアーノの円熟期の技法が凝縮されています。

作品の概要

この絵画は、ローマの詩人オウィディウスの『変身物語』を基に、海岸の崖に鎖でつながれたアンドロメダを、空を飛んで現れたペルセウスが救う場面を捉えています。ペルセウスはすでに怪物の肩を攻撃しており、傷を負わせています。作品は、1605年の時点で既に「傷んだ」と記録されており、その後も損傷に見舞われ、四辺が切り取られるなど、多くの変遷を辿っています。

歴史

制作後、作品はヴェネツィアからベルギー、スペイン、イタリア、イギリス、フランスと所有者が変わり、最終的には再びイギリスに戻りました。絵画がスペイン王室コレクションを離れた経緯は定かではありませんが、レオーニ家を経由して、画家アンソニー・ヴァン・ダイクによってイングランドにもたらされ、後にオルレアン・コレクションに加わりました。現在はロンドンのウォレス・コレクションに収蔵されています。

神話と絵画の源泉

ギリシア神話によると、エチオピアの王妃カシオペアは、自身の美しさを海神ポセイドンに仕えるネレイデスよりも優れていると主張したため、ポセイドンの怒りを買い、エチオピアは海の怪物の災厄に見舞われます。カシオペアは娘アンドロメダを怪物に捧げることで災厄を鎮めようとしますが、メデューサ退治を終えて帰国中のペルセウスがこの状況を目撃し、アンドロメダを救出します。ティツィアーノの絵画は、オウィディウスの物語に忠実でありながらも、独自の解釈が加えられています。例えば、アンドロメダの両親は物語では近くにいるのですが、絵画では遠景に小さく描かれています。また、アンドロメダの足元には、後にメデューサの力で生まれたとされる珊瑚が描かれています。ペルセウスは、ヘルメスから剣を、アテナから盾を授かり、翼のあるサンダルと帽子を身に着けています。

《ポエジア》連作

『ペルセウスとアンドロメダ』は、《ポエジア》連作の一部として制作されました。この連作には、『ダナエ』や『ヴィーナスとアドニス』など、神話を題材にした作品が含まれています。ティツィアーノは、フェリペ2世に宛てた手紙の中で、この作品が「もう一つの異なる眺め」を提供するものであると述べています。

構成の変遷

絵画の制作過程では、構図が何度も変更されました。当初、アンドロメダは画面右側に描かれていましたが、最終的には左側に移動しています。X線や赤外線リフレクトグラフィーによる調査により、この変化の過程が明らかになっています。怪物の配置も当初は異なっており、海水からより高くそびえ立っていました。

作品の来歴

フェリペ2世は1556年にこの絵を受け取りましたが、ティツィアーノへの報酬は1574年まで支払われていなかったと記録されています。その後、絵画は様々な所有者の手を経て、アンソニー・ヴァン・ダイクのコレクションに入りました。ヴァン・ダイクはイタリア滞在中にレオーニ家からこの作品を入手したと考えられています。その後、ノーサンバランド伯爵、フランスの政治家、そしてオルレアン公のコレクションへと渡り、最終的にウォレス・コレクションに収蔵されました。

複製と印刷

『ペルセウスとアンドロメダ』は、他の《ポエジア》作品ほど多くは複製されていませんが、いくつかの複製が存在します。フェリペ2世が絵画を与えた際に、スペイン王室コレクションの複製が制作され、現在ではジローナの博物館に所蔵されています。また、エルミタージュ美術館やアングル美術館にも、それぞれ複製やコピーが所蔵されています。

《ポエジア》シリーズ

《ポエジア》連作には、以下の作品が含まれています。

『ダナエ』 (1553年)
『ヴィーナスとアドニス』 (1554年)
『ディアナとアクタイオン』
『ディアナとカリスト』
『エウロペの略奪』 (1560-1561年頃)
『アクタイオンの死』 (1559年頃、連作に数えられないことも多い)


ティツィアーノの『ペルセウスとアンドロメダ』は、神話の物語を卓越した描写力で描き出しただけでなく、その後の美術史にも大きな影響を与えた傑作と言えるでしょう。

もう一度検索