ホロフェルネスの遺骸の発見

『ホロフェルネスの遺骸の発見』

サンドロ・ボッティチェッリが1469年から1470年頃に制作したテンペラ画『ホロフェルネスの遺骸の発見』は、旧約聖書外典の「ユディト記」を題材にした作品です。この絵画は、ボッティチェッリの初期の作品であり、対作品である『ユディトのベツリアへの帰還』と共に、トスカーナ大公妃ビアンカ・カッペッロが所有していたことで知られています。現在、この作品はフィレンツェのウフィツィ美術館に所蔵されています。

作品の背景

「ユディト記」によると、アッシリアの王ネブカドネザル2世は、メディア王国との戦争後に、協力しなかったイスラエルを含む地中海東岸の諸都市を滅ぼそうとしました。そのために派遣された司令官ホロフェルネスは、イスラエルのベツリアを包囲しました。町の指導者オジアスが降伏を考えた際、信仰心の厚いユディトは、自ら敵陣に赴き、ホロフェルネスを魅了します。そして、彼が泥酔した隙に、ユディトはホロフェルネスの首を切り落とし、召使と共にベツリアへと帰還しました。

絵画の描写

本作品は、ホロフェルネスの首のない遺体が発見される場面を描いています。彼の部下である兵士たちは、東洋風の衣装を身につけ、寝台に横たわるホロフェルネスの遺体に狼狽しています。遺体の首の切断面からは鮮血が溢れ出し、そのショッキングな光景は、鑑賞者に強い印象を与えます。画面には、悲嘆に暮れる者、驚愕する者、天を仰ぐ者など、様々な感情を抱く兵士たちの姿が描かれています。天幕の外には、明け方の空と、遠くにベツリアの街が見えます。

ボッティチェッリはこの作品で、師であるフィリッポ・リッピの影響に加え、アンドレア・デル・ヴェロッキオやポッライオーロ兄弟の影響も受けています。特に、ポッライオーロ兄弟の線形主義は、後の『プリマヴェーラ』にも見られる優雅さにつながるものです。

作品の特徴

この絵画の最大の特徴は、その劇的な表現です。鑑賞者は、ホロフェルネスの遺体と直接対峙することになり、まるで事件現場に立ち会っているかのような感覚を覚えます。遠近法は、ドラマチックな効果を優先するために、意図的に不均衡に描かれており、寝台の周囲に集まった兵士たちの身長が誇張されているのは、鑑賞者の視線を遺体へと集中させるためです。また、ホロフェルネスの若々しい遺体は、ボッティチェッリが古典古代の理想美を追求していたことを示しています。しかし、対作品である『ユディトのベツリアへの帰還』に描かれた首が老人のように見えるため、両作品間の身体描写の不一致が指摘されています。

本作品は小型の板絵ですが、その描写は細密画のように繊細で、特別な機会にのみ鑑賞されていたと考えられています。板絵はわずかに反っているものの、保存状態は良好です。

来歴

この作品と対作品は、16世紀後半の史料で確認されています。1584年には、ラファエロ・ボルギーニの著書『絵画と彫刻の休息』で言及されており、当時、彫刻家・美術収集家のロドルフォ・シリガッティが、トスカーナ大公妃ビアンカ・カッペッロに献上したとされています。当時は、二連画として、彫刻と金箔が施されたクルミ材の額縁に収められていました。ビアンカの死後、絵画は息子の代を経て、メディチ家のコレクションに加わりました。その後、ウィツィ宮殿に収蔵され、背中合わせに額装された時期もありましたが、現在では分離され、額装されていない状態で展示されています。

このように、『ホロフェルネスの遺骸の発見』は、ボッティチェッリの初期の画業を示す重要な作品であり、その鮮烈な表現と物語性は、今日においても多くの人々を魅了し続けています。

もう一度検索