ホロフェルネスの首を持つユディト (ルーベンス)

『ホロフェルネスの首を持つユディト』は、フランドルの巨匠ピーテル・パウル・ルーベンスが1616年頃に描いた油彩画です。この作品は、旧約聖書外典の「ユディト記」に登場するヒロイン、ユディトを題材としています。現在は、ドイツのブラウンシュヴァイクにあるアントン・ウルリッヒ公爵美術館に所蔵されています。

主題

物語は、イスラエルの町ベトゥリアがアッシリアの将軍ホロフェルネスによって包囲される場面から始まります。ホロフェルネスは町の水源を断ち、住民を苦しめます。この状況を打破するため、未亡人ユディトは喪服を脱ぎ、侍女を伴って敵陣に潜入します。彼女はホロフェルネスに取り入り、「ベトゥリアを見限った」と嘘をつき、彼を信用させます。ユディトの美しさに魅了されたホロフェルネスは、彼女と酒宴を重ねるうちに酔い潰れて眠り込みます。その隙をついて、ユディトは隠し持っていた刀でホロフェルネスの首を斬り落とし、それを袋に入れてベトゥリアへと帰還します。翌朝、指揮官を失ったアッシリア軍は戦意を喪失し、撤退。これにより、ベトゥリアは危機を脱しました。

作品の特徴

ユディトとホロフェルネスの物語は、古来より「悪に対する美徳の勝利」を象徴するテーマとして描かれてきました。ルネサンス期のドナテッロによる彫刻『ユディトとホロフェルネス』もその一例です。しかし、ルネサンスからバロックにかけては、この主題はサムソンとデリラの物語と同様に、「女性が男性の破滅を招く」という視点から、官能的かつ劇的に表現されることが多くなりました。

カラヴァッジョ派の画家たちは、このテーマを特に好んで取り上げました。ルーベンスもその影響を受け、1610年代に2点の『ユディト』を描いています（もう一点は現存せず）。ルーベンスの作品は、明暗のコントラストを強調し、若々しく力強いユディトの美しさを際立たせています。また、老婆の描写も特徴的で、カラヴァッジョ派の影響が顕著です。現存しない作品は、コルネリス・ハレ（父）の版画によって知られており、そこではユディトがホロフェルネスの首を斬る場面が、より凄惨に描かれています。一方、本作では、乳房を露わにしたユディトの姿を通して、物語に内在するエロティシズムが強調されています。ルーベンスが1610年代後半から用いた、大まかな筆致は、肌や衣装の質感を見事に表現しており、夜の静寂の中で熱を帯びた雰囲気を効果的に醸し出しています。

ルーベンスの筆致は、物語の劇的な場面を一層引き立て、ユディトの勇気と決意、そしてその美しさを余すところなく表現しています。この作品は、ルーベンスがバロック美術の巨匠としての地位を確立する上で、重要な役割を果たした作品の一つと言えるでしょう。

ギャラリー

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参考文献

山崎正和、高橋裕子『ルーベンス』中央公論社〈カンヴァス世界の大画家 13〉、1982年12月。ISBN 978-4-12-401903-2。
大島力『名画で読み解く「聖書」』、世界文化社、2013年刊行 ISBN 978-4-418-13223-2

外部リンク

* Web Gallery of Artサイト、ピーテル・パウル・ルーベンス『ホロフェルネスの首を持つユディト』 (英語)

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