ボーア磁子

ボーア磁子についての詳細

ボーア磁子（ボーアじし、英: Bohr magneton）とは、原子物理学において重要な役割を持つ電子の磁気モーメントを表す物理定数です。1913年にルーマニアの物理学者ステファン・プロコピウによって初めて提唱され、その後デンマークの著名な物理学者ニールス・ボーアによって再発見されたことから、ボーア＝プロコピウ磁子としても知られています。通常、ボーア磁子は記号 μB で表されます。

ボーア磁子の値

国際単位系（SI）におけるボーア磁子の推奨値は、2022年のCODATAによると次の通りです。

• - μB = 9.274 × 10^{-24} A m²（アンペア平方メートル）
• - 電子ボルトを用いると、μB ≈ 5.788 × 10^{-5} eV/T（電子ボルト毎テスラ）

また、ガウス単位系では μB = 9.274 × 10^{-21} erg Oe^{-1}（エルグ毎オーステッド）と表されます。

他の物理定数との関係

ボーア磁子は、古典的な磁気モーメントの概念とも関連しています。通常、回転する帯電体が持つ磁気モーメントは、その角運動量の半分に電荷と質量の比を掛けたもので表されます。ボーア磁子は、ボーアの原子模型において、基底状態にある電子の軌道角運動量に基づく磁気モーメントと一致します。

基底状態の軌道角運動量は換算プランク定数 ħ に等しく、電気素量 e および電子質量 me によって次のように表されます。

μB = (eħ)/(2me)

ここで、ガウス単位系では電流と磁気の関係が異なるため、光速度 c の因子を含む表現が必要になります。

物理的意義

ボーア磁子は、磁気モーメントを理解する上で自然な単位とされています。軌道角運動量は ħ で表され、ボーア磁子を通じて、電子のスピン角運動量 ħ/2 との関連性も示されます。ディラック方程式により、電子のスピンによる磁気モーメントがボーア磁子にほぼ等しくなることが示されており、これにより電子の磁気モーメントのボーア磁子からのずれが異常磁気モーメントとして注目されています。この異常は、量子電磁力学のくりこみ理論によって説明されます。

この結果、電子による磁気モーメントをボーア磁子を基準として評価することができ、実効ボーア磁子数 μeff = μ/μB として表現される場合もあります。

さらに、陽子もスピン角運動量を持つため、核子や原子核のスピン磁気モーメントは、ボーア磁子を使用することができますが、ここでは電子の質量 me を陽子の質量 mp に置き換えた核磁子を用います。陽子は電子の約1840倍の質量を持っているため、核磁子はボーア磁子の約1/1840に該当します。

このように、ボーア磁子は電子の磁気的特性を量子力学的に理解するための重要な指標であり、原子物理学の最も基本的な要素の一つです。

もう一度検索