ポルトガル文学

ポルトガル文学：歴史と文学的潮流

ポルトガル文学は、ポルトガル国内で創作された作品やポルトガル人作家による作品を包括する豊かな文学世界です。その歴史は古く、中世の叙事詩から現代のノーベル賞受賞作家まで、多様な表現とテーマが展開されてきました。

黎明期：カンティーガスと中世文学

ポルトガル文学の起源は、従来『アフォンソ2世の遺言書』（1214年）と考えられていましたが、近年さらに古い文献が発見されました。12世紀末から13世紀にかけては、南フランスのトゥルバドゥール音楽の影響を受けた恋愛叙事詩「カンティーガス」が盛んに創作されました。カンティーガスは、恋慕の情を歌った「カンティーガス・デ・アモール」、不在の恋人を想う女性の心情を描いた「カンティーガス・デ・アミーゴ」、風刺的な内容の「カンティーガス・デ・エスカルニオ・イ・マルディゼール」の3つのジャンルに分類されます。特に、ディニス1世はポルトガル語の普及に尽力し、カンティーガスの制作を奨励しました。この時代にはガリシア＝ポルトガル語が広く用いられ、カスティーリャ王国からも多くの作品が生まれています。これらのカンティーガスは、現在もいくつかの詞華集（カンシオネイロス）として残されており、ポルトガル文学の貴重な遺産となっています。

ルネサンスと大航海時代

16世紀になると、イタリア・ルネサンスの影響を受け、ポルトガル文学は古典主義の時代を迎えました。古代ローマやギリシアの文化が規範となり、ジル・ヴィセンテは社会矛盾を描いた劇作品で知られています。そして、ポルトガル文学の最高傑作と評されるルイス・デ・カモンイスの叙事詩『ウズ・ルジアダス』は、古代ルシタニア人からヴァスコ・ダ・ガマまでのポルトガル人の歴史を壮大に描き出しています。

大航海時代には、海外進出を記録した紀行文学が盛んになりました。ゴメス・エアネス・デ・アズララの『西アフリカ航海の記録』、ペロ・ヴァス・デ・カミーニャの『書簡』（1500年）、ジョアン・デ・バロスの『アジア史』、トメ・ピレスの『東方諸国記』、フェルナン・メンデス・ピントの『東洋巡歴記』（1614年）などは、当時の世界観や航海の記録を伝える貴重な資料です。言語面では、フェルナン・デ・オリヴェイラが『ポルトガル語文法』（1536年）を著し、ポルトガル語の体系化に貢献しました。

衰退と啓蒙主義

17世紀に入ると、スペインによる支配の影響でポルトガルの国力が衰え、文学にも停滞が見られました。この時代、アントニオ・ヴィエイラ神父は、ブラジルにおける奴隷制を批判する説教集を著しました。18世紀の啓蒙主義時代には、ポンバル侯爵による改革で、アルカディア・ルジターナ（ポルトガル作家協会）の創設やコインブラ大学の改革などが行われましたが、文化の停滞は依然として続きました。

ロマン主義とリアリズム

19世紀には、ナポレオン戦争後、ロマン主義がポルトガルに導入されました。アルメイダ・ガレットやアレシャンドレ・エルクラーノらが活躍し、ロマン主義文学が発展しました。カミロ・カステロ・ブランコは、北部の習俗を描いた小説で知られています。しかし、ロマン主義に続く保守的な超ロマン主義は、1865年のコインブラ問題で批判を受けました。この批判は、「70年の世代」と呼ばれる実証主義的なグループを生み出し、アンテロ・デ・ケンタル、エッサ・デ・ケイロスらが活躍しました。エッサ・デ・ケイロスは、『アマーロ神父の罪』（1875年）、『マイア家のひとびと』（1888年）などの傑作を残しました。その後、象徴主義や新ガレット主義といった新たな潮流が現れました。

20世紀：ポルトガル・ルネサンスとその後

1910年の共和制革命後、ポルトガル・ルネサンス運動が興隆しました。フェルナンド・ペソアは、『アギア』誌を創刊し、多くの作家を育成しました。テイシェイラ・デ・パスコアイアスは、「サウダーデ」という郷愁の概念をポルトガル精神の表現として提示しました。ペソア自身もサウダーデをテーマにした作品を数多く残し、「20世紀のカモンイス」と称されています。一方、『セアラ・ノーヴァ』派は、サウダーデを批判し、共和主義を支持しました。1926年のクーデターとサラザール政権下では、検閲と弾圧が文学に影を落としましたが、アキリーノ・リベイロ、ミゲル・トルガ、フェルナンド・ペソアらは創作活動を続けました。

現代ポルトガル文学

現代では、ジョゼ・サラマーゴ（ノーベル文学賞受賞）、アントニオ・ロボ・アントゥーネス、アグスティナ・ペッサ・ルイスなどが活躍し、ポルトガル文学は世界的に高い評価を受けています。植民地戦争やカーネーション革命といった歴史的出来事を題材にした作品も多く発表されています。

ポルトガル文学は、その歴史的背景や社会情勢を反映し、常に変化と発展を続けてきました。これからも、新たな才能や作品が生まれ、世界中の人々を魅了し続けることでしょう。

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