マシュミ

マシュミ (インドネシア・ムスリム協議会)

マシュミ（Masyumi）は、インドネシアにかつて存在したイスラーム団体であり、政党です。正式名称は「インドネシア・ムスリム協議会（Majelis Syuro Muslimin Indonesia）」で、マシュミはその略称として広く知られています。

沿革

結成期 (1943年)

1943年11月22日、第二次世界大戦中、日本軍政下のジャワ島で、イスラーム系諸団体を結集してマシュミは結成されました。当時、日本軍政は、イスラーム系団体の影響力を利用し、戦争遂行に必要な資源や人材を効率的に調達しようと目論んでいました。具体的には、ムハマディヤやナフダトゥル・ウラマー（NU）といった主要なイスラーム組織を統合し、軍政の宗務部による統制を強化することを目指しました。

オランダ植民地時代の1937年には、すでに同様のイスラーム系団体連合としてミアイ（MIAI、インドネシア・イスラーム最高会議）が存在していましたが、マシュミは組織規模と地方への浸透度において、ミアイを大きく上回りました。軍政当局はマシュミに法的地位を与え、合法的な活動を保障することで、その制度的基盤を確立しました。その結果、マシュミ関係者は各行政機関で要職を得て、村落レベルのムスリム指導者層も公的な発言力を増していきました。また、軍政当局はムスリム青年層の武装化を推進し、マシュミ傘下の軍事組織ヒズブラ（Hizbu'llah）を結成しました。ヒズブラの兵力は、日本の敗戦時には約5万人に達し、独立戦争期にはさらに規模を拡大し、オランダとの武力闘争を担う主要な武装勢力の一つとなりました。

独立革命期 (1945年～1949年)

1945年8月17日、インドネシアが独立を宣言すると、マシュミは政党として再出発しました。それが1945年11月7日のことです。軍政下のマシュミ指導部は、ムハマディヤやNUといった、政治色の薄いイスラーム系社会団体が中心でしたが、新たに発足したマシュミ党には、インドネシア・サレカット・イスラーム党（PSII）やインドネシア・イスラーム党などの政治的イスラーム団体が加わり、より急進的な指導部が形成されました。初代議長には、インドネシア・イスラーム党のスキマンが就任しました。

マシュミ党は、オランダとの独立戦争を聖戦（ジハード）と位置づけ、ムスリムに反オランダ闘争を呼びかけました。また、党綱領ではイスラームの理念を国政に反映させることを掲げました。しかし、当初から党内には様々な派閥が存在し、一枚岩ではありませんでした。党としては中央政府の外交交渉を批判する一方で、党内の若手指導者が社会党首班内閣に入閣するなど、足並みが揃わない面もありました。モハマッド・ナシールを領袖とする穏健改革派や、スキマンを領袖とする保守派など、指導者の個性、出自、経歴、政治志向、そして支持層が大きく異なる派閥が存在していました。

議会制民主主義期 (1950年～1957年)

オランダからの独立後、1950年9月6日に単一の共和国として発足したインドネシアで、マシュミ党の穏健派であるナシールを首相とする内閣が発足しました。しかし、独立戦争によって拡大した軍事組織の解体、地方の不満、西イリアン問題など、解決すべき課題は山積していました。

マシュミ党は、インドネシアの人口の大部分を占めるムスリムの支持を背景に、総選挙での勝利を目指しましたが、これは他の政党の警戒を招きました。1951年3月、地方議会設置をめぐる混乱でナシール内閣が総辞職すると、マシュミ党保守派のスキマンを首班とする内閣が発足しました。しかし、1952年2月、外相がアメリカとの相互安全保障協定を締結したことがきっかけとなり、内閣は総辞職しました。

1951年4月27日に発足したインドネシア国民党のウィロポを首班とする連立内閣では、宗教大臣の任命をめぐってマシュミ党内で内紛が生じました。その結果、1952年7月にはNUがマシュミから脱退し、党の勢力は後退しました。1955年9月29日に行われたインドネシア初の総選挙では、マシュミは第二党となりましたが、インドネシア国民党に及ばず、NUが第三党となり、その影響力を示しました。

地方反乱とマシュミ党禁止 (1958年～1960年)

1956年3月に発足した国民党首班のアリ・サストロアミジョヨ内閣にはマシュミ党からも入閣しましたが、政治は安定せず、閣僚の汚職、議会の空転、地方の不満などが噴出しました。特にジャワ以外の地方では、中央政府への不満が強く、地方軍が独自に資源を密輸するなど、政府からの離反が進みました。1957年3月、マシュミ党はアリ内閣から閣僚を離脱させ、内閣は総辞職しました。

こうした状況に対し、スカルノ大統領は議会政治に不満を抱き、民選議会の解散、一党制の導入、1945年憲法への復帰を主張しました。しかし、マシュミ党はスカルノの一党制論とPKIの国政参加に反発しました。1958年2月15日、西スマトラの反乱軍はインドネシア共和国革命政府（PRRI）の樹立を宣言し、マシュミ党の幹部がこれに参加しました。アメリカ政府もPRRIを支援しましたが、中央政府はPRRIを武力鎮圧し、1960年8月、マシュミ党はスカルノによって非合法化されました。

その後、スカルノも失脚し、ナシールらは釈放されましたが、政治活動は禁じられました。スハルト体制下では、旧マシュミ党関係者がインドネシア・ムスリム党を結成しましたが、党勢は振るわず、1973年には他のイスラーム系政党とともに開発統一党に合併されました。

1995年10月28日には、マシュミ党の後継政党を名乗る「新マシュミ党」が結成され、その後の総選挙にも参加しています。

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