洗濯船

バトー・ラヴォワール（洗濯船）: 20世紀美術の揺籃

パリ18区モンマルトル、クリニャンクール地区に存在した「バトー・ラヴォワール」、通称「洗濯船」は、20世紀初頭の芸術家たちの活動拠点として知られています。エミール・グードー広場に面したラヴィニャン通りに位置し、独特の建物構造からその名が付けられました。まるでセーヌ川に浮かぶ洗濯船を思わせる、積み木のような外観は、詩人マックス・ジャコブによって命名されたと言われています。

建物の歴史と芸術家たちの集積

かつてこの地には「比類なき梨の木」という酒場がありましたが、地盤沈下により閉鎖。その後、ピアノ製造工場を経て、1889年にアトリエを備えた建物へと改築されました。暗くて狭く、暖房設備も不十分だったことから、家賃の安さを求める貧しい芸術家たちが集まるようになりました。

芸術家たちの交流と創造の舞台

「洗濯船」には、ピカソ、モディリアーニ、ジョルジュ・ブラック、フアン・グリス、モーリス・ドニ、コンスタンティン・ブランクーシなど、錚々たる芸術家たちが集まりました。彼らはこの場所で創作活動を行い、活発な交流を通して互いに刺激し合いました。

ピカソとキュビスム

ピカソは「洗濯船」でキュビスムを確立する重要な作品『アビニヨンの娘たち』を制作しました。彼の恋人であったフェルナンド・オリヴィエも「洗濯船」に住んでおり、ピカソの作品のモデルを務めたことで知られています。フェルナンドはピカソとの生活を綴った回想録を残し、貧しいながらも情熱的な創作活動の様子を伝えています。

モディリアーニの足跡

イタリア人画家アメデオ・モディリアーニも「洗濯船」周辺で活動し、ピカソやマックス・ジャコブらと交流しました。モディリアーニのアトリエがあったことは、残された写真や証言から分かります。

その他の芸術家たち

画家マクシム・モーフラは「洗濯船」の最初の入居者の一人で、ポール・ゴーギャンとも交流がありました。詩人ポール・フォールは18歳で劇団「芸術座」を設立するなど、多様な才能が「洗濯船」に集結していました。

「ルソーの夜会」

1908年、ピカソは古物商で見つけたアンリ・ルソーの絵画をきっかけに、「洗濯船」でルソーを称える盛大な夜会を開きました。この夜会には、ピカソ、フェルナンド・オリヴィエ、ギヨーム・アポリネール、マックス・ジャコブ、マリー・ローランサンなど多くの芸術家が参加し、ルソーの才能を認めました。

火災と再生

1970年、「洗濯船」は火災によりほぼ全焼してしまいました。しかし、パリ市によってアトリエが再建され、現在も若い芸術家たちが創作活動の場として利用しています。焼け残ったファサードにはショーウィンドーが設置され、洗濯船に関する資料が展示されています。

日本の紹介

日本では、滋賀県立近代美術館や名古屋松坂屋美術館などで「洗濯船」をテーマとした展覧会が開催され、その歴史と芸術家たちの活動が紹介されています。

結論

「バトー・ラヴォワール（洗濯船）」は、20世紀美術史に大きな足跡を残した集合アトリエでした。多くの芸術家たちの交流と創造の場として、またキュビスム誕生の地として、その歴史的意義は今もなお人々の心を捉え続けています。その再生された姿は、過去の栄光と未来への希望を象徴していると言えるでしょう。

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