浅野晃

浅野晃：詩人、国文学者としての生涯と業績

浅野晃（1901年8月15日 - 1990年1月29日）は、20世紀日本の文壇に重要な足跡を残した詩人、国文学者です。滋賀県大津市に生まれ、広島、東京で学びました。第一高等学校時代には、蔵原惟人、飯島正、富永太郎、河上徹太郎といった錚々たるメンバーと交友関係を持ちました。また、同級生には五島茂や池谷信三郎、後輩には小林秀雄、正岡忠三郎といった著名人が名を連ねていました。

東京帝国大学法学部卒業後、大宅壮一らと「新思潮」を創刊、新人会にも参加しました。その後、東大経済学部大学院を退学し、野坂参三の産業労働調査所に入所。1926年には日本共産党に入党し、福本イズムに傾倒しました。1927年には社会運動家の伊藤千代子と結婚。しかし、1928年の三・一五事件で検挙され、水野成夫の転向声明に同調し、自身も転向しました。

その後、ショーペンハウアーや岡倉天心の著作に感銘を受け、マルクス主義と訣別し、国粋主義的な立場をとるようになりました。岡倉天心の英文著書『東洋の理想』の翻訳も手がけました。この転向後、詩や評論を執筆し、皇道文学の確立を主張、大東塾出版部顧問や新国学協会同人として活動しました。（誤解が多いですが、日本浪曼派とは関わりがありませんでした。）

1955年、立正大学文学部教授に就任し、1976年まで教鞭を執りました。1964年には詩集『寒色』で第十五回読売文学賞を受賞、その文才の高さを証明しました。

浅野は戦後も旺盛な創作活動を続けました。三島由紀夫とは深い交流があり、『天と海』（1965年）で太平洋戦争の戦没者を弔った詩集を三島自身も朗読し、レコードとして残しています。三島由紀夫の死後には追悼文と詩「哭三島由紀夫」を発表しています。

彼の著作は多岐に渡り、マルクス主義に関する論考から、国文学研究、詩集、さらには児童文学まで、幅広い分野で執筆活動を行いました。主な著書には、『帝国主義論の武器を如何に把握すべきか』『詩歌と民族』『岡倉天心論攷』『天と海』などがあります。また、マルクスの『哲学の貧困』、エンゲルス『空想より科学へ』、岡倉天心の著作などの翻訳も手掛けています。

浅野晃は、激動の時代を生き抜き、その思想的変遷は時代の流れを反映しています。マルクス主義者から国粋主義者へと転向したその経緯や、一貫して持ち続けた強い民族意識、そして詩人としての繊細な感性は、彼の作品群に深く刻み込まれています。晩年は心不全のため逝去しましたが、彼の著作は、現代においても読まれ続け、日本の近代文学史における重要な一端を担っていると言えるでしょう。

主要な著書一覧

政治・思想関連:『帝国主義論の武器を如何に把握すべきか』、『マルクス的方法の形成 「哲学の貧困」に於ける問題の提起と問題の解決』、『共産病患者の病理 わが体験と同志の批判』など
文学評論:『詩歌と民族』、『時代と運命』、『岡倉天心論攷』、『読書と回想』、『悲劇と伝統 評論集』など
詩集:『寒色』、『天と海』、『忘却詩集』、『定本浅野晃全詩集』など
翻訳:マルクス『哲学の貧困』、エンゲルス『空想より科学へ』、岡倉天心『東洋の理想』など
* 児童文学:『少年太閤記 地の巻』、『今昔物語 日本古典』、『吉田松陰 幕末の先覚者』など多数

この一覧は彼の多様な活動の一端を示すに過ぎません。彼の著作を通して、激動の時代を生きた一人の知識人の思想と、詩人としての才能に触れることができます。

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