マヌエル1世コムネノス

マヌエル1世コムネノスの生涯

マヌエル1世コムネノス（1118年 - 1180年）は、東ローマ帝国コムネノス王朝の第3代皇帝です。父は皇帝ヨハネス2世コムネノス、母はハンガリー王女エイレーネーでした。彼は「メガス」（偉大なる）という渾名で知られ、その忠誠心と賞賛を集めました。

皇位継承と即位

本来四男であったマヌエルは、兄たちの早世と父の事故死により、1143年に皇位を継承しました。即位にあたり、首都で留守を預かっていた兄イサキオスを拘束して機先を制し、戴冠式を強行しました。その後、イサキオスと和解しました。

十字軍への対応

1147年、第2回十字軍が到来しました。マヌエルは当初、十字軍を歓迎しましたが、ルーム・セルジューク朝との休戦条約があったため、内心では十字軍の駐屯を快く思っていませんでした。彼は十字軍への対応が一貫せず、物資供給を約束しながらも果たさず、案内人の失踪やセルジューク朝軍の攻撃により、十字軍の信頼を失いました。ダマスカス包囲戦の失敗により、十字軍は解散し、マヌエルがムスリムと内通していたとの疑念も生じました。

イタリア遠征

マヌエルは、シチリア王ルッジェーロ2世に対抗するため、ドイツ王コンラート3世と同盟を結びました。しかし、コンラート3世の死後、後継者フリードリヒ1世は東ローマ帝国と協力せず、イタリア遠征は暗礁に乗り上げました。

1155年、マヌエルはノルマン人諸侯と同盟を結び、イタリア遠征を再開しましたが、ブリンディジの戦いで惨敗し、南イタリアはシチリア軍に奪還されました。しかし、1158年にシチリアと和睦し、フリードリヒ1世に対抗する軍事同盟を築きました。

キリキア・シリア遠征

1158年、マヌエルはキリキア・シリア遠征を行い、アルメニア人のキリキア領主トロス2世やアンティオキア公ルノー・ド・シャティヨンを制圧しました。アンティオキアを帝国の宗主権下に置き、エルサレム王国との同盟も維持しました。

外交

1160年代には、ルーム・セルジューク朝との友好関係を築き、神聖ローマ帝国に対抗する同盟を結成しようとしました。しかし、ヴェネツィアとの対立、ルーム・セルジューク朝との戦争で、帝国は孤立を深めました。

ヴェネツィアとの戦争

1171年、マヌエルは帝国領内のヴェネツィア人を一斉逮捕し、財産を没収しました。これにより、ヴェネツィアとの関係が悪化し、戦争が勃発しました。東ローマ帝国はヴェネツィア艦隊を撃破しましたが、両国間の確執は深まりました。

小アジア方面の敗北

ルーム・セルジューク朝との関係は、1176年のミュリオケファロンの戦いで破綻しました。東ローマ軍はセルジューク軍に大敗し、マヌエルは困難な撤退を余儀なくされました。この敗戦により、帝国の威信は失墜しました。

晩年

晩年のマヌエルは、幼い息子アレクシオス2世の皇位継承を確実にするために尽力しました。しかし、1180年に死去し、その後、アレクシオス2世はアンドロニコス1世に暗殺され、コムネノス王朝は終焉を迎えました。

政策

外交戦略

マヌエルの外交戦略は、「戦わずして勝つ」ことでした。彼は戦争を避け、外交交渉や財政支援で紛争を解決しようとしました。また、西欧の封建制度を導入し、周辺諸国との関係を強化しようとしました。

しかし、イタリア遠征での失敗は、彼の外交戦略の脆さを露呈しました。また、ヴェネツィアとの戦争やミュリオケファロンの敗戦により、帝国の孤立は深まりました。

宗教

マヌエルは、ムスリムのキリスト教への改宗を容易にするため、教義の解釈を変更しました。この宗教政策は、聖職者から猛反発を受けました。

芸術

建築に熱心だったマヌエルは、ブラケルナエ宮殿を増改築し、自身の戦勝を描いたモザイクで装飾しました。また、外交パフォーマンスとして、儀式や壁画を利用し、皇帝の権威を示しました。

外国人受け入れと一門の強化

マヌエルは、西欧の騎士道の風習を宮廷に導入し、西欧人を兵士や外交官に登用しました。また、コムネノス一門の強化を図りましたが、結果として地方有力者の権力強化につながり、皇帝権力の弱体化を招きました。

人物

マヌエルは、魅力的で教養と武芸に長けた人物でした。しかし、好色で猜疑心が強く、複雑な性格だったとされています。歴史家ヨハネス・キンナモスは彼を高潔な人物として描いたのに対し、ニケタス・コニアテスは小心者として描いています。

家族

最初の皇后ベルタとの間に2女、後添えマリーとの間に1男アレクシオス2世がいました。また、多くの愛妾と庶子がいました。

正式称号

マヌエルは、古代ローマ帝国の後継者であることを強く意識し、古代ローマ風の征服称号を名乗りました。これは、彼の権威を誇示するものでした。

まとめ

マヌエル1世コムネノスは、東ローマ帝国の皇帝として、多岐にわたる政策を展開しました。彼の治世は、帝国の栄光と衰退が交錯する時代であり、彼の行動は後世に多くの議論を呼びました。

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