ママのご帰還

概要

『ママのご帰還』（原題: My Favorite Wife）は、1940年に公開されたアメリカ合衆国のスクリューボール・コメディ映画です。レオ・マッケリーが製作と脚本に携わり、ガーソン・ケニンが監督を務めました。主演はアイリーン・ダンとケーリー・グラント。物語は、船の遭難事故に遭い、行方不明となっていた妻が数年後に生還し、再婚しようとしていた夫のもとに戻ってくることから巻き起こる騒動を描いています。本作の着想は、アルフレッド・テニスンによる1864年の物語詩「イノック・アーデン」に由来しており、主人公夫妻の姓もこの詩にちなんでアーデンと設定されています。助演には、夫の新たな妻となるビアンカ役をゲイル・パトリックが、孤島で妻と共に過ごした男性スティーヴン役をランドルフ・スコットが務めました。

あらすじ

弁護士のニック・アーデンは、船の遭難で行方不明となってから7年が経過した妻エレンを、失踪宣告により法的に死亡したと認定させます。そして、ビアンカという女性との再婚を決め、結婚式を挙げようとしていました。ところが、まさにその時、遭難後に無人島に漂着し、数年間を過ごしていたエレンが無事救出され、帰還したことが明らかになります。自宅に戻ったエレンは、ニックが新しい妻ビアンカと新婚旅行に出発した直後であることを知ります。

エレンは新婚初夜を迎える前にニックの居場所を突き止め、ニックは妻が生きていた事実をビアンカにどう伝えれば良いか、途方に暮れます。彼はこの厄介な説明を先延ばしにし続けます。一方、ビアンカはニックの奇妙な振る舞い、特に結婚の手続きを完了させようとしないことに苛立ちを募らせ、精神分析医のコヒマー博士を呼び寄せます。さらに事態は複雑化します。保険会社の担当者から、エレンが島でスティーヴン・バーケットという男性と一緒で、互いを「アダム」「イヴ」と呼び合っていたという噂を聞かされたニックは、エレンを問い詰めます。エレンは、風采の上がらない靴のセールスマンをスティーヴンだと偽ってごまかそうとしますが、ニックは既に本物の、たくましく魅力的なスティーヴンの存在を知っていました。

ニックは、この異常な状況をビアンカと、彼女が信頼するコヒマー博士に説明しようと試みますが、二人はニックの話を信じようとしません。結局、ニックは重婚の罪で逮捕されてしまいます。法廷では、かつてエレンの失踪宣告を認め、ニックとビアンカの結婚を承認したブライソン判事が、今度はニックとビアンカの2度目の結婚を無効とする判決を下します。この時点までに、エレンはニックの気持ちが自分に戻っているのか確信が持てなくなっていました。スティーヴンはエレンに求婚し、共に島へ戻ることを提案しますが、エレンは依然としてニックを愛しています。物語は、ニックとエレンが最終的に和解し、再び夫婦となる結末を迎えます。

キャスト

エレン・ワグスタッフ・アーデン：アイリーン・ダン (Irene Dunne)
ニック・アーデン：ケーリー・グラント (Cary Grant)
スティーヴン・バーケット：ランドルフ・スコット (Randolph Scott)
ビアンカ・ベイツ：ゲイル・パトリック (Gail Patrick)
ニックの母マー：アン・シューメーカー (Ann Shoemaker)
アーデン夫妻の息子ティム：スコティ・ベケット (Scotty Beckett)
アーデン夫妻の息子チンチ：メリー・ルー・ハリントン (Mary Lou Harrington)
その他の出演：ドナルド・マクブライド、ヒュー・オコンネル、グランヴィル・ベイツ、ペドロ・デ・コルドバ、チェスター・クルートら

受容と評価

本作は公開当時、興行的に大きな成功を収め、50万ドルを超える収益を上げました。第13回アカデミー賞では、原案賞、作曲賞、美術賞（モノクロ映画部門）の3部門にノミネートされましたが、惜しくもいずれも受賞は逃しました。

メディア展開とリメイク

本作はラジオドラマとしても人気を博し、1940年から1950年にかけて「ラックス・ラジオ・シアター」や「スクリーン・ギルド・シアター」などで6回にわたり放送されました。アイリーン・ダンやケーリー・グラントといったオリジナルキャストが再演することもあれば、ロザリンド・ラッセル、ローレンス・オリヴィエ、バーバラ・スタンウィック、ロバート・テイラーなどが異なる配役で演じることもありました。

また、本作は後にリメイクが試みられました。20世紀フォックスは1962年、『Something's Got to Give』の仮タイトルで、ジョージ・キューカー監督、主演にマリリン・モンロー、ディーン・マーティン、シド・チャリシーを迎えて製作を開始しましたが、主演のモンローの度重なる遅刻など撮影中のトラブルが絶えず、彼女が降板させられた後、代役を巡る問題もあり、未完成に終わりました。モンローの死後、改めてドリス・デイとジェームズ・ガーナーを主演に迎え、旧作にかなり忠実なバージョンが制作され、『女房は生きていた (Move Over, Darling)』のタイトルで1963年に公開されました。未完成となった『Something's Got to Give』も、撮影済みのフィルムの一部が現存しており、その断片を見ることができます。

関連作品

本作と同様にアルフレッド・テニスンの詩「イノック・アーデン」を翻案した作品や、同じテーマ（行方不明と思われた配偶者の帰還）を扱った映画が存在します。

『Too Many Husbands』（1940年）：同じ年に公開されたロマンティック・コメディで、本作と類似した設定を持っています。
『私の夫は二人いる』（Three for the Show）（1955年）：上記『Too Many Husbands』をミュージカル・コメディとしてリメイクした作品です。

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