マルペロ島

マルペロ島

マルペロ島は、南米コロンビアが太平洋上に有する孤島です。コロンビア本土のブエナベントゥーラ海岸から西へ約490キロメートルの沖合に位置しており、その周辺海域は多種多様なサメ類をはじめとする豊富な海洋生物の宝庫として知られています。この貴重な生態系を保護するため、マルペロ島とその周辺海域は広大な禁漁区として指定されており、正式名称は「マルペロ動植物保護区」とされています。この保護区は、その顕著な自然の美しさや、生態系および生物群集の進化と発達における重要な過程を示す例であることが認められ、2006年にユネスコの世界遺産（自然遺産）リストに登録されました。

地理的特徴

マルペロ島は、約2000万年から1700万年前に火山活動によって形成されたと考えられています。島の周囲の岸壁は、水深4000メートルにも達する深海へと急峻に落ち込んでいます。地理的には、「ドルサレ・デ・マルペロ」と呼ばれる北東から南西方向に約296キロメートル伸びる広大な海底火山帯の山稜の一部にあたります。かつては現在の約10倍の面積があったと地形学者たちは推定しており、長年の海洋による浸食作用、降水、そして強風といった自然の力によって徐々に削られ、現在の面積である約3.5平方キロメートルになったとされています。島の最高地点は海抜320メートルのモナ山です。島の周囲には、ロス・モスケテロス、バガマレス、ラ・トルタ、ロス・トレス・レジェスなど、特徴的な形状を持つ11の岩が点在しています。

この島は太平洋の二つの回帰線の中間に位置しており、南北両半球からの貿易風が集まる場所にあります。このため、気候は多様な風と大量の降雨に特徴づけられます。島には恒常的な淡水の湧き出し口はありませんが、標高の高い場所が雨水を集め、それが岩肌を伝って流れ落ちることで、一時的に淡水を得ることができます。

科学的な重要性と観光地としての側面も持っており、マルペロ島には世界中から研究者やダイバーが頻繁に訪れます。特に、その驚異的な水中環境は、世界的に有名なダイビングスポットの一つとなっています。島の自然はコロンビア海軍の人員によって常時監視・保護されており、特にサメを標的とした違法な密漁に対して厳しい目が光らせています。

生物多様性

マルペロ島周辺の海洋環境は、北赤道海流、赤道反流、赤道潜流（クロムウェル海流）など、周辺を流れる8つの主要な海流や海洋現象の影響を強く受けています。これらの海流の多くは暖流であり、水温は約26度から27度、塩分濃度は比較的高めです。このような独特の海洋環境が、非常に豊かな生物多様性を育んでいます。この海域には、オオワニザメ、シュモクザメ、クロトガリザメ、そして巨大なジンベエザメといった様々な種類のサメが数多く生息しています。また、タマカイやカジキ、マグロといった大型魚類の他、多様な海洋哺乳類、爬虫類、軟体動物、そしてサンゴ礁が見られます。この地固有の種も確認されており、これまでに5種の魚類と2種のヒトデがマルペロ島固有種として知られています。

陸上環境においても、固有性が高い生物が見られます。島固有の植物が5種、爬虫類が3種、節足動物が2種確認されています。さらに、ナスカカツオドリ、アカメカモメ、アオツラカツオドリ、ガラパゴスシロハラミズナギドリといった海鳥たちの巨大なコロニーが営巣しており、島の生物多様性を特徴づけています。

歴史と保護活動

マルペロ島は、その歴史の中でいくつかの出来事の舞台ともなりました。1828年8月31日には、ペルー海軍とコロンビア海軍の間で「マルペロの戦い」と呼ばれる海戦がこの島周辺で発生しています。

島の自然環境の重要性に着目したコロンビア政府は、1995年にマルペロ島を「マルペロ動植物保護区」として国立の自然保護区に指定することを決定しました。さらに、2002年には国際海事機関（IMO）によってその海域が特別敏感海域（PSSA）に指定され、同年には最も厳しい保護カテゴリーに登録されるなど、国際的な保護の枠組みも強化されていきました。保護区の面積も段階的に拡大され、当初の651平方キロメートルから757平方キロメートルへと広がったことで、世界でも有数の規模を持つ海洋保護区の一つとなっています。これらの保護活動が実を結び、2006年7月12日にユネスコの世界遺産に登録されました。

マルペロ島の保護には、生物学者サンドラ・ベスド氏が重要な役割を果たしました。太平洋のサメの保護を目的とした国際的なプログラムを主導する傍ら、彼女は非政府組織（NGO）である「マルペロと他の海洋生態系の基金（Fondation Malpelo et autres Ecosystèmes Marins）」を設立し、特にマルペロ島周辺のコロンビアの海洋生態系の保全に尽力しています。

名称の由来

マルペロ島の名称の正確な由来は、歴史的な記録からはっきりしていません。この島が初めて地図に描かれたのは1550年の世界全図だとされていますが、その時の名称は「イェ・マラブリ（Ye mallabry）」と記されていました。同時期に作成された他の地図では、「マラブリゴ（malábrigo）」という言葉が島や湾を示すのに使われており、これはかつてスペイン語で「庇護されていないもの」を意味したと考えられています。また、別の説としては、ラテン語の「マルウェオルス（malveolus）」に由来するという見方もあります。これは「人を近づけないもの」といった意味合いを持ち、アクセスが困難なこの島の特徴を表す言葉として、それが転訛して「マルペロ」という名前になったのかもしれません。

世界遺産としての価値

マルペロ島が2006年に世界遺産に登録された主な理由は、その周辺に広がる海洋生態系の卓越した普遍的価値、特に豊かなサメ類をはじめとする生物群集にあります。登録された範囲は合計857,500ヘクタールに及びますが、その中で陸地部分はわずか350ヘクタールにすぎず、保護対象の99.9%以上が広大な海洋領域であることが特徴です。世界遺産の登録基準としては、「ひときわ優れた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの」である基準(7)と、「陸上、淡水、沿岸および海洋生態系と動植物群集の進化と発達において進行しつつある重要な生態学的、生物学的プロセスを示す顕著な見本であるもの」である基準(9)を満たしていると評価されています。

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