マーナガルム

マーナガルム：北欧神話における巨大な狼

[北欧神話]]において、マーナガルム]は非常に興味深い存在です。その名は「[[月の犬」を意味し、恐るべき力を持つ狼として知られています。本稿では、マーナガルムに関する様々な側面を、既存の文献に基づいて詳しく解説します。

イアールンヴィズの森の住人

『スノッリのエッダ』によれば、マーナガルムは、ミズガルズの東にあるイアールンヴィズの森に住む女巨人の子孫であるとされています。この女巨人は多くの巨人を生み出しましたが、それらは全て狼の姿をしていたと記されています。太陽を追うスコル、月を追うハティも、この一族に属する狼とされており、その中でもマーナガルムは最強の狼として描かれています。

マーナガルムの恐るべき力

マーナガルムは、すべての死者の肉を貪り、月を捕獲して天と空を血で染めるとされています。この行為によって太陽は光を失い、世界に暗闇をもたらすと伝えられています。その圧倒的な力と残虐性は、北欧神話における死と破壊の象徴として捉えることができるでしょう。

マーナガルムとハティ：同一視と異論

しばしば、マーナガルムは月を追う狼ハティと同一視されることがあります。しかし、この説に対しては異論も存在します。アクセル・オルリックは、『古エッダ』の記述を根拠に、太陽の前を走る狼ハティと、月を捕食する狼を同一視することに疑問を呈しています。

オルリックは、『グリームニルの言葉』における「太陽の前を走る狼」という記述について、それが太陽の周辺に現れる光の現象「幻日」を指していると解釈しています。この「幻日」は、北欧諸国では「太陽狼」と呼ばれ、広く知られていたと考えられます。イギリスやアメリカでも同様の現象が「sundog」として知られており、この解釈は、北欧における太陽狼の概念が広く共有されていたことを示唆しています。

対照的に、北欧の民俗信仰において「月を飲み込む狼」という明確な存在は確認されていません。オルリックは、スノッリ・ストゥルルソンが『グリームニルの言葉』の記述を誤解したために、マーナガルムという新たな狼の概念が生み出されたのではないかと推測しています。

まとめ：マーナガルム像の多様性

マーナガルムは、北欧神話における重要な存在ですが、その解釈は多様性に富んでいます。最強の狼として描かれる一方、その正体については、月を捕食する狼、あるいは太陽の周辺に現れる光の現象を擬人化した存在とする解釈も存在します。これらの異なる解釈を理解することで、北欧神話における象徴や宇宙観の一端を垣間見ることができるでしょう。今後の研究によって、さらなる知見が得られることが期待されます。

参考文献

アクセル・オルリック『北欧神話の世界』尾崎和彦訳、青土社、2003年
V.G.ネッケル他編『エッダ 古代北欧歌謡集』谷口幸男訳、新潮社、1973年
* 杉原梨江子『いちばんわかりやすい 北欧神話』、実業之日本社、2013年

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