ミソサザイ

ミソサザイ（鷦鷯）

ミソサザイ（学名: Troglodytes troglodytes）は、その小さく丸みを帯びた体と、ピンと立った短い尾が特徴的な、スズメ目ミソサザイ科の鳥類です。日本では古くから親しまれており、その名は「小さい鳥」を意味する「さざき」に由来するとも、「溝の小さな鳥」が転じたとも言われています。

分布

ミソサザイは、ヨーロッパ、アフリカ北部、アジア、北アメリカと広範囲に分布しています。日本では、大隅諸島以北に留鳥として周年生息しており、亜高山帯から高山帯にかけて繁殖します。一部の個体は、冬になると低山帯や平地に移動して越冬します。

形態

全長は約11cm、体重は7-13gと、日本に生息する野鳥の中でも最小クラスです。全身は茶褐色で、体の上面と翼には黒褐色の横縞模様が、体の下面には黒色と白色の波状の横縞模様があります。雌雄同色で、体つきは丸みを帯びており、短い尾を上に立てる姿勢をよく見せます。

生態

ミソサザイは、茂った薄暗い森林の中に生息し、特に渓流の近くを好みます。単独または番いで生活し、群れを形成することはありません。繁殖期以外は基本的に単独で行動します。

早春の2月頃から囀り始め、その美しい歌声は平地や里山でも耳にすることができます。小さな体からは想像できないほど大きく、よく響く高音で「チリリリリ」と囀ります。また、「チャッチャッ」という地鳴きもします。ウグイスの地鳴きに似ていますが、ミソサザイの地鳴きはより金属的な音で「ジジッ」と聞こえるため、聞き慣れると容易に区別できます。

食性は動物食で、昆虫やクモなどを食べます。

繁殖期は5-8月で、一夫多妻制です。オスは縄張りの中に複数の巣を作り、メスを誘います。巣はコケ類や獣毛などを使って作られた壺型で、崖地や大木の根元などに設けられます。特徴的なのは、巣に出入り口が2つあり、外敵から襲われた際に親鳥が反対側から脱出できるようになっている点です。抱卵と育雛はメスが行います。

分類

ミソサザイ属（Troglodytes）には、ミソサザイの他に、イエミソサザイやヤマミソサザイなど、多くの種が含まれています。

ミソサザイ（T. troglodytes）には、アイスランド、フェロー諸島、日本など、地域によって多くの亜種が存在します。日本では、亜種ミソサザイ（T. t. fumigatus）が本州、四国、九州に分布しています。

人間との関係

ミソサザイは、古くから日本の文化に登場する鳥であり、『古事記』や『日本書紀』にも記述があります。また、グリム童話の『みそさざいと熊』では、「鳥の王様」として描かれています。

日本では、その愛らしい姿と美しい囀りから、多くの人々に親しまれています。しかし、近年は生息地の減少などにより、一部地域では絶滅の危機に瀕しており、保護活動が行われています。

保全状況

国際自然保護連合（IUCN）のレッドリストでは、軽度懸念（LC）に指定されています。

日本では、亜種ミソサザイ（T. t. fumigatus）が、複数の都道府県でレッドリストに指定されています。伊豆諸島に生息するモスケミソサザイ（T. t. mosukei）は、環境省と東京都のレッドリストで絶滅危惧IB類（EN）に指定されています。また、南大東島に生息していたダイトウミソサザイ（T. t. orii）は、既に絶滅しています。

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