ムデハル様式

ムデハル様式は、スペインとポルトガルで発展した建築様式で、イスラム建築とキリスト教建築が融合した独特なスタイルを特徴とします。この様式は、レコンキスタ（国土回復運動）後のスペインにおいて、イスラム教徒（ムデハル）の建築様式とキリスト教建築様式が混ざり合うことで誕生しました。ムデハル様式の最大の特徴は、建物の壁面に幾何学文様の装飾が施されている点です。この様式は、中世においてキリスト教徒とイスラム教徒が共存したという特異な社会環境の中で生まれました。

ムデハル様式の歴史的背景
ムデハル様式は、キリスト教勢力によるアンダルシア征服（レコンキスタ）後、スペインに残ったイスラム教徒（ムーア人）によって作り上げられました。彼らの中には、キリスト教に改宗せず、イスラムの教えを守り続けた人々もいました。12世紀から16世紀にかけて、特にアラゴンとカスティーリャ地方で、ムーア人の好みや技術が強く反映され、独特な様式が発展しました。

「ムデハル」という言葉は、中世アラビア語の「ムダッジャン」（ مدجن）に由来し、「家畜化された」や「服従を受け入れた者」という意味を持ちます。これは、レコンキスタ後のイスラム教徒の立場を反映しています。1492年のグラナダ陥落後も、ムーア人はしばらくその地位を維持しましたが、16世紀半ばにはキリスト教への改宗を強制され、その後「モリスコ」として知られるようになりました。1610年には強制的に追放されましたが、彼らの文化は建築、音楽、芸術、工芸などに色濃く残っています。

ムデハル様式は、イスラム教徒が追放された後も、スペイン全域、特にアンダルシア地方で存続しました。また、ロマネスク、ゴシック、ルネサンスの建築にもイスラム美術の要素が取り入れられ、時に印象的な結果をもたらしました。この様式は、ユダヤ教、イスラム教、キリスト教の文化が共存する中で生まれたもので、異なる文化が技術や方法を共有した結果と言えます。

12世紀にイベリア半島の建築様式として登場したムデハル様式は、主な材料としてレンガを使用することが特徴です。ゴシックやロマネスクとは異なり、新しい形や構造を創造するのではなく、イスラム美術・建築の影響を受け、西洋文化の建築様式を再解釈したものでした。特に、タイル、レンガ細工、木彫り、石膏彫刻、装飾用の金属などの付属工芸品に、イスラム的な幾何学的特徴が顕著に現れています。また、ムスリム自身が建築を手掛けなくなった後も、彼らの貢献はスペイン建築の不可欠な要素として残りました。

ムデハル様式はトレドで生まれ、建築や装飾のモチーフ（特に石膏細工やレンガによる装飾）を適応させたものとして発展しました。その後、北上してレオン、アビラ、セゴビアなどに広がり、レンガ造りのロマネスクと呼ばれるものを生み出しました。ムデハル芸術の中心地は、サハグン、トロ、クエッラール、アレーバロ、マドリガル、アルタス・トレスなどの都市に存在し、特にアラゴン地方（テルエル、サラゴサ、ウテボ、タウステ、ダロカ、カラタユドなど）で最も発展しました。13世紀から15世紀にかけて、多くのムデハル様式の塔がテルエルに建てられ、街の景観を特徴づけています。この様式は、初期のゴシック様式と、後期ロマネスクに重なっていたイスラムの影響を融合させることで、新たな特徴を生み出しました。セビリアの16世紀初期のカサ・デ・ピラトスは、ムデハル様式の優れた例として知られています。

ネオ・ムデハル様式
ネオ・ムデハル様式は、16世紀から19世紀にかけてのスペイン本国とラテンアメリカで、ムデハル様式の特徴が再び見られるようになった様式です。このスタイルは、特にスペインの闘牛場でよく見られました。これは、ムデハル様式の美的特徴が後世にも影響を与え続けた証拠と言えるでしょう。

このように、ムデハル様式は、歴史的、文化的背景を持つ独特の建築様式であり、その影響は現代にも及んでいます。

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