ムハンマド・オマル

ムッラー・ムハンマド・オマルの生涯

ムッラー・ムハンマド・オマル（1960年 - 2013年4月23日）は、アフガニスタンの政治家であり、イスラム主義勢力ターリバーンの創設者であり、初代最高指導者です。アフガニスタン・イスラム首長国の初代首長も務めました。「オマル」は「ウマル」とも表記され、日本では「オマル師」と呼ばれることが多いです。

ムジャーヒディーンとしての活動

オマルは、アフガニスタン南部のカンダハール近郊出身のパシュトゥーン人です。貧しい農家に生まれ、幼くして父を亡くし、一家の生計を支えました。パキスタンのイスラム神学校で学んだ後、ソ連のアフガニスタン侵攻に対抗するムジャーヒディーンとしてゲリラ戦に参加しました。彼は対ソ連戦で4度負傷し、1986年にはカンダハール近郊での戦闘で右目を失いました。他のムジャーヒディーンとは異なりアラビア語を理解したため、アブドゥッラー・アッザームの思想に感化され、それを広めました。カラチに移り説教を始めた頃、ウサーマ・ビン・ラーディンと出会っています。

ターリバーン結成

1989年にソ連軍が撤退し、アフガニスタン内戦が激化する中、1992年にナジーブッラー政権が崩壊。オマルはカンダハールに戻り、マドラサを設立しました。ターリバーンの指導者になった経緯には諸説ありますが、一説には彼の敬虔な信仰心が評価されたとされています。また、1994年の内戦中に預言者ムハンマドが夢に現れ、武装決起を命じられたという説もあります。オマルは、マドラサの教え子たちと「ターリバーン」（学生）という運動を開始し、治安回復を目指しました。腐敗した軍閥に憤っていたターリバーンは、誘拐された少女を救出し、人々の支持を得て勢力を拡大。1995年にはヘラートを占領するまでになりました。

宗教的権威の獲得

1995年、ターリバーンのカブール攻略が難航する中、オマルは「信徒たちの長」を意味するアミール・アル＝ムウミニーンに指名されました。1996年4月、彼は預言者ムハンマドが使用したとされる外套を着用し、1,500人の宗教指導者の前で忠誠の誓いを受けました。これは、預言者ムハンマドの死後、カリフとなったウマル・イブン・ハッターブと同様の手続きであり、オマルはアフガニスタンだけでなく、世界中のムスリムを指導する権利を得たとされました。

アフガニスタン・イスラム首長国の樹立

1996年、ターリバーンはカブールを占領し、オマルは最高指導者として「アフガニスタン・イスラム首長国」を樹立し、初代首長に就任しました。この政権はイスラムの価値観に基づいた復興を目指しましたが、女子教育の禁止など、極端な人権侵害を行ったため、国際的に孤立しました。また、アメリカと対立していたビン・ラーディンとアルカーイダを匿ったことで、アメリカとの関係はさらに悪化しました。アルカーイダはアフガニスタンでテロリストの訓練キャンプを設置し、アメリカ大使館爆破事件などを引き起こしました。国際連合はアルカーイダとビン・ラーディンの引き渡しを要求しましたが、オマルは拒否しました。

政権崩壊と消息

2001年9月11日にアメリカ同時多発テロ事件が発生し、ビン・ラーディンが最重要容疑者とされたため、アメリカは再びターリバーンにビン・ラーディンの引き渡しを要求しましたが、オマルはこれを拒否しました。その結果、ターリバーンはNATOの攻撃対象となり、同年12月に政権は崩壊しました。オマルはカンダハールを離れ、ザーブル州に潜伏しました。その後、パキスタンでインタビューに答えたり、声明を出したりしましたが、2001年以降はターリバーンの活動にほとんど関わっていませんでした。一説には、アフガニスタンとパキスタンのパシュトゥーン人居住地帯を転々としながら、ジハードを指揮していたとも言われています。また、パキスタンのカラチに住んでいたという情報もあります。アメリカ軍高官は、イランがターリバーンを庇護していると非難しました。

死亡

オマルは2013年に病気で衰弱し、4月23日に隠れ家で亡くなりました。彼の死は、当時アメリカと和平交渉中だったターリバーンにとって不利益となる可能性があったため、しばらく隠蔽されました。2015年7月29日、アフガニスタン政府はオマルが2013年4月にパキスタンのカラチで死亡していたと発表しました。ターリバーンも翌日、彼の死を認めました。中国はオマルの死に動揺した国の一つとされています。オマルの墓は長らく非公開でしたが、2022年11月6日にターリバーン暫定政権によって公開されました。

人物像

オマルは、人見知りで寡黙な性格だったとされています。身長は198cmと非常に高く、頑丈な体格をしていました。アメリカ国務省が掲載したオマルの写真は別人であり、生前の公式な写真や映像はほとんど存在しませんでした。唯一、彼と思われる映像は、預言者ムハンマドのマントを取り出した時のBBCの不鮮明な映像でした。2015年、ターリバーンは1978年に撮影された隻眼になる前のオマルの写真を公開しました。アフガニスタンの詩人アブドゥル・バリ・ジャハニが、ターリバーンの統治に対する人々の不満を伝えた際、オマルは彼を見つめて「神の御加護を」とだけ述べたと言われています。

発言

「アッラーフ（神）は私たちに勝利を約束し、ブッシュは私たちに敗北を約束した。世界は、どちらの約束が果たされるかを目の当たりにするでしょう。」（対テロ戦争宣言に関して、ボイス・オブ・アメリカのインタビューで）

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