メフメト4世

メフメト4世：オスマン帝国の変革と苦難の時代

メフメト4世（1642年 - 1693年）は、オスマン帝国の第19代皇帝として、1648年から1687年まで在位しました。父帝イブラヒムが殺害された後、わずか7歳で即位するという異例の経歴を持ちます。母はウクライナ出身のトゥルハン・ハティジェであり、後の皇帝スレイマン2世とアフメト2世は彼の弟、ムスタファ2世とアフメト3世は彼の息子にあたります。

幼少期の苦難と即位

メフメト4世は、父イブラヒムと母トゥルハン・ハティジェの間に生まれました。しかし、父帝イブラヒムはハレムの女性に溺れ、母トゥルハンとの関係は悪化。幼いメフメトは、その争いに巻き込まれ、貯水槽に投げ込まれるという悲惨な経験をしました。幸いにも、後宮の召使いによって救出されましたが、その際に額に負った傷は生涯消えることはありませんでした。

1648年、父帝イブラヒムが殺害されると、メフメト4世はわずか7歳で即位しました。幼い皇帝の即位後、宮廷内では祖母であるキョセム・スルタンが権力を掌握し、政治に大きな影響力を行使しました。

キョセム・スルタンの暗殺とトゥルハンの台頭

キョセム・スルタンに対抗するため、メフメト4世の母であるトゥルハン・スルタンは、自身の勢力を拡大しました。キョセムは、メフメト4世よりも弟のスレイマンの方が扱いやすいと考え、メフメト4世の廃位とスレイマンの即位を目論みます。しかし、トゥルハンは先手を打ち、刺客を差し向け、1651年にキョセムを絞殺しました。これにより、トゥルハン・スルタンが宮廷内での権力を確立しました。

タルフンジュ・アフメト・パシャによる財政改革

深刻な財政難を打開するため、1652年に大宰相に任命されたタルフンジュ・アフメト・パシャは、徹底的な財政改革を断行しました。関税収入の増加、宮廷費の削減、汚職官僚の厳罰化など、大胆な政策を次々と打ち出しました。これらの改革は一定の成果を上げましたが、多くの人々の恨みを買い、タルフンジュ・アフメト・パシャはメフメト4世を退位させようとしているという噂まで流れました。最終的に、1653年にタルフンジュ・アフメト・パシャは処刑されましたが、彼の改革によって財政は再建され、一時はヴェネチア艦隊の海上封鎖を解除することに成功しました。

キョプリュリュ時代とその功績

1656年以降、キョプリュリュ家が政権を担うようになり、オスマン帝国は新たな時代を迎えました。キョプリュリュ・メフメト・パシャ、キョプリュリュ・アフメト・パシャ、カラ・ムスタファ・パシャらが大宰相として活躍し、軍事、政治、経済など、様々な分野で改革を推進しました。

キョプリュリュ・メフメト・パシャは、まず敵対する軍人集団を粛清し、権力を掌握しました。その後、ヴェネチア海軍を破り、エーゲ海の封鎖を解除。トランシルヴァニア遠征では、オスマン帝国の意に反する行動をとっていたラーコーツィ・ジェルジ2世を討伐しました。また、クレタ島の征服作戦を開始し、長期にわたる包囲戦の末、1669年にクレタ島を征服しました。

キョプリュリュ・アフメト・パシャは、ハプスブルク家との戦闘を再開し、難攻不落と言われたウイヴァール城砦を陥落させました。しかし、ザンクト・ゴットハルトの戦いで大敗を喫し、ヴァシュヴァールの和約を結びました。この和約はオスマン帝国にとって有利な内容であり、傀儡であるアパフィ・ミハイ1世をトランシルヴァニア公に承認させ、多額の賠償金を得ることに成功しました。

大トルコ戦争と失脚

1683年、大宰相カラ・ムスタファ・パシャは、大軍を率いてウィーンを包囲しました。しかし、ウィーンの守りは堅く、包囲戦は長期化。ポーランド軍とドイツ諸侯軍がウィーンに到着し、オスマン軍は挟撃される形となりました。長引く戦争でオスマン軍の士気は低下しており、第二次ウィーン包囲は失敗に終わりました。

ウィーン包囲の失敗後、オスマン帝国はヨーロッパ諸国との間で大トルコ戦争を戦うことになり、各地で敗北を重ねました。1686年にはハンガリーの中心地であるブタを奪われ、1687年のモハーチの戦いでの敗北をきっかけに、メフメト4世は退位に追い込まれました。

人物像と評価

メフメト4世は、政治をキョプリュリュ家に任せ、自身は狩猟に明け暮れる日々を送っていました。その狩猟好きは有名で、「アヴジュ（狩人）」という愛称で呼ばれていました。しかし、メフメト4世は単なる遊興にふけっていただけでなく、政治的な意図も持っていたと考えられています。

エディルネを居城とすることで、イスタンブールの都市民やイェニチェリの影響力を低下させ、政権の安定化を図りました。また、狩りで立ち寄った町々で非ムスリムにイスラム教への改宗を促し、改宗者には祝い金を下賜しました。これらの政策は、メフメト4世の宗教的偉業として評価されています。

メフメト4世は、オスマン帝国の変革期に在位し、帝国の盛衰を経験した皇帝でした。彼の時代は、キョプリュリュ家による改革、大トルコ戦争での敗北、そして退位など、様々な出来事が起こり、オスマン帝国の歴史において重要な転換期となりました。

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