メムピス

ギリシア神話において、メムピスという名は複数の女性を指すことがあります。メンピスあるいはメンフィスと表記されることもあり、文献によって異なる人物が登場しますが、主に以下の三名が知られています。

ネイロスの娘メムピス

ナイル川の神であるネイロスを父に持つメムピスは、アンキノエー、アニッペー、エウリュッロエー、エウローペーといった姉妹と共にナイルの水の精とされるニンフの一柱です。彼女はエジプト王にしてアルゴスの王女イーオーの子であるエパポスと結ばれました。メムピスとエパポスの間には、娘リビュエーとリューシアナッサが生まれました。夫であるエパポスは、妻の名に敬意を表して、エジプトに新しい都市メンフィスを建設したと伝えられています。

娘のリビュエーは海神ポセイドーンとの間に双子の息子、アゲーノールとベーロスをもうけました。アゲーノールは後にポイニーケー地方の王となり、その子孫からはエウローペーやカドモスなどが生まれる重要な家系を築きました。一方、弟のベーロスはエジプトの王位に就き、その子孫にはダナオスやアイギュプトスがいます。もう一人の娘リューシアナッサもまたポセイドーンの子を産んだとされ、その息子はエジプトの暴虐な王として知られるブーシーリスでした。ただし、ヒュギーヌスの伝える神話では、エパポスの妻はカッシオペイアであったとする異説も存在します。

ダナオスの妻メムピス

アルゴスへ逃れたエジプト王ベーロスの子孫、ダナオスには多くの妻と娘がいました。その妻の一人であるメムピスは、クレイテー、ステネレー、クリューシッペーという三人の娘の母です。ダナオスには合計で50人の娘（ダナイデス）がおり、それぞれが叔父にあたるエジプト王アイギュプトスとその妻テュリアーの息子たち（アイギュプトスの子ら）と結婚させられました。メムピスの娘たちも例外ではなく、父の策略により、それぞれ同名のアイギュプトスの子ら、クレイトス、ステネロス、クリューシッポスと夫婦となりました。

しかし、婚礼の夜、ダナオスの命令を受けた娘たちは、ただ一人ヒュペルムネーストラーを除いて、与えられた短剣で夫を殺害しました。メムピスの三人の娘もまた、この悲劇的な運命を辿り、自らの手で夫を殺めたのです。

ウコレウスの娘メムピス

古代エジプトの伝説的な王ウコレウスの娘とされるメムピスもまた、同名の都市の由来として語られることがあります。シケリアのディオドーロスが伝えるところによれば、ウコレウス王はナイル川沿いに都市を建設しましたが、その際に愛娘メムピスの名を冠したとされます。このメムピスはさらに、ナイル川の河神に深く愛されました。河神は彼女との間に子をもうけるため、牡牛の姿に変身して近づいたとされています。この神と人との間に生まれた子がアイギュプトスであり、後にエジプトの王家を築くことになる人物です。このように、ウコレウスの娘メムピスもまた、エジプトの歴史と深く結びついた存在として神話に登場します。

結び

以上のように、メムピスという名前は複数の異なる神話上の女性を指し示しています。それぞれのメムピスは、エジプトやギリシアの初期の王家、あるいは重要な都市の起源といった、異なる神話的系譜や出来事に関わっています。したがって、神話や歴史的記述を読む際には、どのメムピスについて語られているのかを文脈から判断する必要があります。

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