モハマッド・ハッタ

モハマッド・ハッタ：インドネシア独立の立役者

モハマッド・ハッタ（1902年8月12日 - 1980年3月14日）は、インドネシア共和国の初代副大統領であり、同国の独立に大きく貢献した人物です。初代大統領スカルノと共に、民族主義運動と独立運動を牽引しましたが、その出自、性格、信条は対照的であり、スカルノを批判する立場でもありました。

生い立ちと教育

ハッタは、オランダ領東インド時代の西スマトラ、ブキティンギで生まれました。ミナンカバウ族は商才に長けていることで知られており、ハッタの生家も郵便輸送を請け負う商家でした。幼少期からイスラム塾でクルアーンを学び、現地のオランダ人子弟向け初等学校にも通い、オランダ語教育を受けました。パダンの普通中学校、バタヴィア（現ジャカルタ）の中等商業学校を経て、1921年にオランダへ留学し、ロッテルダム商科大学で学びました。

政治運動への傾倒

オランダ留学中、ハッタは先住民留学生団体「インドネシア協会」（後に「インドネシア同盟」と改称）に加わり、政治運動に身を投じます。ヨーロッパの労働運動や協同組合運動に触れ、左派知識人や活動家との交流を深めました。1927年にはオランダ政府に逮捕されますが、法廷闘争で無罪を勝ち取りました。1932年に経済学修士号を取得して帰国後、インドネシア国民教育協会に参加し、評論活動や啓発活動に尽力します。この時期、民族主義運動の手法や独立国家構想を巡り、スカルノと論争を繰り広げました。

民族主義運動と投獄

1934年、植民地政府が民族主義運動への弾圧を強めると、ハッタも逮捕され、西イリアン、マルク諸島のバンダへ流刑となります。シャフリルと共に、長期間の投獄生活を送ることになりました。

日本軍政下での活動

1942年、太平洋戦争下で日本軍がオランダ領東インドを占領すると、ハッタは政界に復帰します。日本軍政当局は、民衆の協力を得るため、スカルノやハッタといった民族主義者の力を利用しようとしました。一方、民族主義者たちは、与えられた立場を利用して民衆の民族意識を高めることを目指しました。ハッタはスカルノと共に民衆運動の先頭に立ちました。

独立戦争と初代副大統領

日本の敗戦後、1945年8月17日に「インドネシア独立宣言」が発表され、ハッタはスカルノと共に署名しました。オランダとの独立戦争では、首相、外相、国防相を歴任し、特に外交面で主導的な役割を果たしました。ハーグ円卓会議ではインドネシア代表として参加し、1949年12月27日のハーグ協定締結により、インドネシアは独立を果たしました。

独立後、ハッタはスカルノ大統領の下で副大統領に就任し、「双頭体制」として国家運営に携わりました。しかし、次第にスカルノと対立し、1956年に副大統領を辞任。その理由は明確に語られませんでしたが、両者の協力関係の崩壊は、多民族国家における協調の理想が崩れていく過程でもありました。

晩年と遺産

政界を引退後、ハッタはスカルノの「指導される民主主義」や「9月30日事件」後のスカルノの失脚、スハルトの新秩序体制を見守り続け、1980年に生涯を閉じました。政界の汚職や不正に対する批判が高まると、一部の学生や知識人の間でハッタの政界復帰を求める声が上がりました。

ハッタは謹厳な人柄で、信仰心に篤かったと伝えられています。1986年にはスカルノと共に「独立宣言英雄」の称号が贈られました。また、スカルノ・ハッタ国際空港は、両者の功績を称え、その名が冠されています。彼の著作は、インドネシアの独立運動史を研究する上で貴重な資料となっています。

モハマッド・ハッタは、インドネシア独立の父として、今もなお国民から敬愛されています。

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