シンド州

シンド州：歴史と文化が交差するパキスタンの重要地域

シンド州は、パキスタン南部に位置し、アラビア海に面する地域です。インダス川下流域に広がり、その肥沃な土地は古くから文明を育んできました。人口は約5570万人（2023年）で、面積は140,914平方キロメートルに及びます。

名称の由来と歴史

シンドという名前は、古くはサンスクリット語で「海」または「インダス川」を意味する「シンドゥー(Sindhu)」に由来します。この言葉は、アッシリアでは「シンダ(Sinda)」、古代ローマでは「シンドゥス(Sindus)」、中国では「身毒(しんどく)」と呼ばれるなど、様々な形で伝えられてきました。さらに、「インド」、「インダス」、「ヒンドゥー」、「ヒンディー」といった言葉も、その語源を同じくするとされています。南アジアにおいてイスラム教が最初に広まった地域の一つでもあります。

シンド州は、紀元前3千年頃にはインダス文明が栄え、モヘンジョダロなどの遺跡が残っています。その後、アーリア人の移住により古代インド文化圏に入りました。しかし、西方からの侵入や支配が繰り返され、多様な文化が混ざり合ってきました。紀元前6世紀にはアケメネス朝ペルシャに征服され、紀元前4世紀にはアレクサンドロス大王の遠征後、ギリシャ系のセレウコス朝、そしてマウリヤ朝の支配下に入りました。アショーカ王の時代には仏教が盛んになり、クシャン朝時代にも保護されました。その後もアケメネス朝ペルシャによる支配が続きました。

7世紀にはイスラム勢力が侵入し、ウマイヤ朝によってイスラム化が進みました。その後、アラブ人による支配が約3世紀続き、現在のシンドの文化を形成する上で重要な役割を果たしました。10世紀にはトルコ系のガズナ朝が侵入し、11世紀から13世紀にかけては土着の王朝が支配しました。その後、デリー・スルターン朝、ムガル帝国の支配を経て、1843年にイギリスに征服され、ボンベイ管区の一部となりました。1936年にはイギリス領インドのシンド州として独立しましたが、実質的には土着の藩王を通じた間接統治が行われました。20世紀の独立運動では、イスラム系の活動家を多く輩出しました。

1947年のパキスタン独立前には、ヒンドゥー教徒も多数居住していましたが、独立後はインドへの移住を余儀なくされました。独立運動家G.M.Syedは、ナショナリズム運動を起こしましたが、共産主義との関連を理由に徹底的に弾圧されました。

地理と気候

シンド州は、モンスーンの影響を受ける地域でありながら、砂漠気候に属し、年間を通して降水量が少ないのが特徴です。冬は比較的温暖で過ごしやすいですが、夏は非常に暑く、熱波による犠牲者が出ることもあります。12月から1月にかけては、気温がやや下がり、快適な気候となります。カラチの月間最大降雨量は1967年7月の429.3mmで、1日の最大降雨量は1953年8月7日の278.1mmを記録しています。この時には記録的な大洪水が発生しました。

地形的には、東側にタール砂漠、西側にキルタル山脈があり、その間にインダス川沿いの平野が広がっています。南部には、インドのグジャラート州にまたがるカッチ湿地が位置しています。

民族と経済

シンド州には、シンド人が多く居住しており、シンド語、サライキ語、ウルドゥー語などが使われています。経済的には、海に面していることから商工業が盛んで、農業も行われています。特に臨海部にあるカラチは、シンド州だけでなく、パキスタン全体の経済の中心地であり、工業、商業、金融が発達しており、近年ではIT産業も発展しています。インダス川沿いでは、綿花、米、小麦、サトウキビ、バナナ、マンゴーなどが栽培されています。石油、天然ガス、石炭などの資源も産出されています。シンド州は、パキスタンの税収の約30％を占める重要な地域です。

隣接する州

シンド州は、以下の州と隣接しています。

バローチスターン州
パンジャーブ州
ラージャスターン州
グジャラート州

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