モンテ・サクロ

モンテ・サクロ：古代ローマの歴史を刻む丘

ローマ郊外に位置するモンテ・サクロ(Monte Sacro)は、アニエーネ川右岸、カンピドリオの北東約5キロメートルに広がる丘陵地です。標高は約50メートルとさほど高くありませんが、古代ローマの歴史において、宗教、政治、そして社会構造の変化に深く関わる重要な場所でした。

古代ローマ時代のモンテ・サクロ

モンテ・サクロの名は「聖なる山」を意味します。伝説によると、アウグル（鳥を観察して神意を占う神官）たちが鳥の飛翔を観察し、予言を行なっていた場所とされ、このことが名称の由来と考えられています。強い風が吹き荒れることもあったようで、神官たちは魔術の儀式でそれを鎮めようとしたという伝承も残されています。

古代ローマ時代、モンテ・サクロはローマ市街地から離れた郊外に位置し、フィクレアやノメントゥムといった古代都市を結ぶ交通路沿いにありました。ノメンターナ街道は丘の近くを通っており、玄武岩が露出する地帯には多くの墳墓が作られ、現在でもその一部が残っています。

丘は宗教儀式の場であると同時に、地理的な目印となる地形でもありました。共和政期には大農園の一部となり、その後宅地化が進み居住区へと変化していきました。皇帝ネロの解放奴隷であるファオンテの邸宅があったという記録も残っており、この邸宅は古代サラリア街道のカーブの付近にあったとされています。

ローマ帝国の終焉後、モンテ・サクロは軍事的に防御が難しいことから、人々は住まなくなり、長い間放置された状態が続きました。ローマ市街地の拡張もこの地域を避けるように進んでいったため、この地域で注目されるのはノメンターノ橋のみとなりました。この橋は検問所や軍の駐屯地として利用された歴史があります。

プレブス反乱と護民官制度

モンテ・サクロは紀元前494年、プレブス（平民）たちがローマの貴族であるパトリキに対する反乱を起こした際に、彼らが立て籠もった場所として有名です。プレブスたちは数日間丘に留まり、ローマ市街の運営を拒否しました。

この事態を解決すべく、元老院議員メネニウス・アグリッパがプレブスのもとを訪れ、社会を人体に喩え、各部分が全体のために役割を担うべきであると説得する有名な演説を行いました。この説得によって事態は収束し、プレブスは護民官制度を獲得しました。護民官はプレブスの代表として貴族院（元老院）の決定を拒否権で牽制する権限を持ち、プレブス民会は護民官を選出し、プレブスの権利擁護に当たりました。さらにプレブスのための法律が制定され、彼らの地位は守られるようになりました。

プレブスたちは、この合意を記念し、ユピテル神殿をモンテ・サクロに建立したと伝えられています。この出来事が「聖なる山」という名称の由来になったという説もあります。

近代とモンテ・サクロの誓い

1805年8月15日、後の南米独立運動の英雄となるシモン・ボリバルは、モンテ・サクロで家庭教師であったシモン・ロドリゲスと従兄弟のフェルナンド・デル・トロと共に、スペインからのベネズエラ解放を誓いました。これは「モンテ・サクロの誓い」として知られています。22歳だったボリバルは、後に5か国を解放するリベルタドーレス（解放者）となるのです。

まとめ

モンテ・サクロは、古代ローマの政治的・社会的な変革、そして宗教的な側面を知る上で貴重な歴史的遺産です。単なる丘ではなく、ローマの歴史に深く刻まれた重要な場所と言えるでしょう。 この地で起こった出来事は、古代ローマ社会の構造や、人々の権利意識の変化を理解する上で重要な手がかりを与えてくれます。

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