ヤマカガシ

ヤマカガシ（Rhabdophis tigrinus）は、日本の固有種である爬虫類、ナミヘビ科に分類されるヘビです。「カガシ」は古く蛇を指す言葉であり、「山の蛇」を意味します。かつて無毒と信じられていましたが、後に非常に強力な毒を持つことが明らかになりました。

形態

成体は全長60cmから最大で120cmほどです。体色や斑紋は地域差があり、関東地方では赤と黒の斑紋、関西地方では不明瞭、中国地方西部では青色型が見られます。黒化型も存在し、顎の下部が黄色いことが多いです。幼体では頸部背面に鮮やかな黄色の帯がありますが、成長につれて目立たなくなります。体表の鱗には、はっきりとした隆起（キール）が見られます。

分布

本州、四国、九州を中心に、佐渡島、隠岐島、壱岐島、五島列島、屋久島、種子島などに広く分布しています。北海道、対馬、伊豆諸島、トカラ列島以南の南西諸島、小笠原諸島には自然分布していません。模式標本は長崎で採集されました。

毒性

ヤマカガシは特徴的な2種類の毒を持ちます。一つは咬傷時に注入される血液凝固毒で、上顎奥の短い毒牙から注入されます。この毒は強力な血液凝固作用を持ち、体内で微小な血栓を形成させ、全身の止血機能を失わせます。結果として、鼻血、消化管出血、皮下出血など広範な出血症状が現れます。重症化すると脳出血や急性腎不全など生命に関わる合併症を引き起こし、過去には死亡例も報告されています。毒量が多い場合は頭痛が見られることもあります。
もう一つは、頸部皮下にある頸腺から分泌される毒です。防御に用いられ、頸部を圧迫されると毒液を飛散させます。目に入ると強い刺激痛や結膜炎、角膜損傷などを引き起こします。この頸腺毒は、捕食したヒキガエル類に含まれる毒物（ブフォトキシン）を体内に蓄積して利用しているという説が研究によって支持されています。

生態

水田や湿地、水辺に近い森林などに生息しています。一般的には大人しい性質ですが、攻撃的な個体も存在するため注意が必要です。主にカエル類を捕食しますが、有尾類、ニホンカナヘビ、ドジョウ類なども食べます。天敵はシマヘビ、猛禽類、モズなどです。幼蛇はタガメにも捕食されることがあります。繁殖は卵生で、秋に交尾し、翌年の7月頃に2個から43個の卵を産みます。

人間との関わり

かつては日本本土で比較的よく見られるヘビの一つでした。特に水田環境で活動し、人々の生活圏と関わりがありましたが、近年の環境変化により生息数は減少傾向にあります。都市部では稀になりました。咬傷事故は、主に人が捕獲や取扱いをする際に発生し、過去には死亡例も報告されています。頸腺毒が目に入ることによる被害も発生します。重症例には血清療法が適用されることがあります。日本では特定動物に指定されており、2020年6月からは愛玩目的での飼育が原則禁止されています。

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