ヤーセプス・ヴィートリス

ヤーセプス・ヴィートリス（Jāzeps Vītols, 1863-1948）は、ラトビアが生んだ最も重要な作曲家の一人であり、「ラトビアのクラシック音楽の父」として深い尊敬を集めている人物です。作曲、音楽教育、音楽評論、ピアノ演奏と多岐にわたる活動を展開し、特にラトビアの民族音楽を芸術音楽へと昇華させる上で先駆的な役割を果たしました。ドイツ語名ではヨーゼフ・ヴィートル（Joseph Wihtol）とも表記されます。

学校教師の息子としてヴァルミエラに生まれたヴィートリスは、1880年にペテルブルク音楽院に入学し、高名な作曲家ニコライ・リムスキー＝コルサコフに作曲を学びました。1886年に卒業後、1901年には母校の作曲科教員として迎え入れられ、ニコライ・ミャスコフスキーやセルゲイ・プロコフィエフといった後世に名を残す多くの作曲家を育成しました。音楽院での同僚であったアナトーリ・リャードフやアレクサンドル・グラズノフらと親しい関係を築き、楽譜出版社の創設者ミトロファン・ベリャーエフからは作品の出版機会を得ただけでなく、彼の邸宅で開催されていた音楽愛好家の集まり「金曜日」にも頻繁に参加しました。また、1897年から1914年にかけては、ドイツ語で発行されていた「サンクトペテルブルク日報」の音楽評論を担当し、批評家としても活動しました。ロシア滞在中から、ヴィートリスは故郷ラトビアの民間伝承や民謡に深い関心を寄せ、ペテルブルクに存在したラトビア人の合唱団を指揮するなど、民族音楽への愛着を培っていました。

1918年、ラトビアがソヴェト・ロシアからの独立を達成すると、ヴィートリスは祖国へ帰国し、まもなく国立リガ歌劇場の指揮者となりました。翌1919年には、後のヤーゼプス・ヴィートリス音楽アカデミーとなるラトビア音楽院を設立し、1944年まで作曲科の教授として、ヤニス・イヴァノフスやアードルフス・スクルテといったラトビア音楽界を担う次世代の作曲家たちを指導しました。1923年にはラトビア作曲家協会の設立メンバーの一人となり、ラトビアにおける音楽文化の組織化にも貢献しました。しかし、第二次世界大戦中の1944年、戦禍を避けるためドイツのリューベックへ移住。1948年、その地で生涯を終えました。ヴィートリスの家族がリガへ戻ることができたのは、ソ連からの再独立後の1993年のことでした。

ヴィートリスの作品は、ロシアで受けた教育、特に師リムスキー＝コルサコフからの影響が顕著に見られます。オーケストレーションにおける色彩感や華麗さはその例です。同時に、彼はラトビアにおけるロマン派的な民族主義音楽の推進者であり、ラトビアで初めて国際的な評価を確立した作曲家です。彼は、ラトビアの民族音楽の素材を積極的に活用し、しばしばラトビア民謡の旋律を自身の作品に取り入れました。これは、ロシア五人組がロシアの民謡を用いて独自の国民楽派音楽を創出した手法に通じるものであり、ヴィートリスもまたラトビア独自の音楽語法を確立することを目指していました。彼の書いた大規模な作品、特にソナタ形式を用いた楽曲は、印象的で劇的な展開をしばしば見せます。全体としては、20世紀の潮流から見れば比較的保守的な傾向を示しながらも、巧みな作曲技術と音楽的な洗練を備えていました。

ヴィートリスは多岐にわたるジャンルの作品を残しました。管弦楽曲としては、交響曲 ホ短調、劇的序曲 作品21、交響詩《スピリディティス》 作品37、ヴァイオリンと管弦楽のための《ラトビア民謡による幻想曲》 作品42、交響的バラード《秋の歌》などがあります。声楽曲には、バリトンと管弦楽のためのバラード《ベヴェリナの吟遊詩人》 作品28、カンタータ《歌》 作品35、《北極光》 作品45、そして大規模な復活祭カンタータ《山上の垂訓》といった作品のほか、約100曲の歌曲と約100曲の合唱曲、さらに約300曲に及ぶ民謡の編曲を手がけました。室内楽では弦楽四重奏曲やチェロとピアノのためのスケッチ 作品12を、ピアノ曲としてはソナタ 変ロ短調 作品1やソナチネ ロ長調 作品63、8つのラトビア民謡 作品32に基づく小品や多数の性格的小品を残しています。これらの作品群は、ラトビア音楽のレパートリーの基盤を形成しています。

もう一度検索