ヤーヒモフ

ヤーヒモフ（チェコ語: Jáchymov）は、チェコ北西部、カルロヴィ・ヴァリ州に位置する温泉町です。エルツ山地の聖ヨアキム谷にあり、ドイツとの国境に近い標高733mに位置しています。ドイツ語では、かつて「ヨアヒムスタール（聖ヨアキムの谷）」と呼ばれていました。

銀鉱山と貨幣の歴史

16世紀初頭、この地で銀が発見されたことが、ヤーヒモフの歴史を大きく変えました。この銀鉱山の開発によって、領主であったシュリック家はボヘミアで最も裕福な貴族となり、彼らが鋳造した銀貨「ヨアヒムスターラー」は、「ターラー」や「ドル」といった多くの通貨名の語源となりました。

鉱石採掘と精錬技術は評判となり、科学者ゲオルク・アグリコラが1520年代後半にこの地を訪れて研究を行い、金属工学という新しい分野の学問を切り開きました。

宗教改革と町の変遷

1523年に宗教改革が始まると、ヤーヒモフはシュマルカルデン戦争中に一時的にザクセン人に占領されました。1621年の対抗宗教改革により多くのプロテスタント住民がザクセン州へ移住しました。1898年には町の名前がヨアヒムスタールからヤーヒモフに変わり、1918年まではオーストリア＝ハンガリー帝国の一部として行政区の中心都市でした。

19世紀まで、町には王宮や鉱山管理のための役所が置かれ、銀鉱山が主要産業でした。銀鉱石だけでなく、ニッケル、ビスマス、ウランの鉱石も採掘されていました。また、大規模なタバコ工場や手袋、コルク、ボビンレースの加工工場もありました。しかし、1873年の大火によって町はほぼ全焼しました。

ラジウム発見と温泉の誕生

20世紀初頭、マリ・キュリーはヤーヒモフで採掘されたウラン鉱石からラジウムを発見し、ノーベル化学賞を受賞しました。この地は第一次世界大戦まで、ラジウムを入手できる唯一の場所でした。

1906年には世界初のラドン温泉が開かれ、カルロヴィ・ヴァリなどの有名温泉地と並ぶ観光地となりました。しかし、1929年には鉱山の放射能が癌を引き起こすことが判明し、換気や給水対策がとられましたが、鉱夫たちの死亡率は高いままでした。

1938年にはズデーテン地方の一部としてドイツに併合され、1945年にドイツ語圏の住民は追放され、チェコ人が移り住みました。

共産主義時代と現代

1948年に共産主義政権が成立すると、ヤーヒモフ周辺には多くの囚人キャンプが建設され、ウラン採掘に人々が従事させられました。この時期の平均余命は42年でした。ウランの採掘は1964年に終了しましたが、かつてのウラン鉱山から湧き出る放射性熱水は、現在では神経疾患やリウマチの治療に利用されています。この熱水には、放射性ガスであるラドンが溶け込んでいます。

近隣の観光地と関連人物

近隣のプレシヴェツ山麓には、かつてカプチン・フランシスコ修道会の修道院がありましたが、1950年代に取り壊されました。また、ヴェセジーチェの谷からは、エルツ山地の最高地点であるクリノヴェツまでチェアリフトが設けられています。

ヤーヒモフは、鉱物学の父と呼ばれる化学者であり、町の医師でもあったゲオルク・アグリコラともゆかりが深く、彼の研究は金属工学の発展に大きく貢献しました。

ヤーヒモフは、歴史的な背景と温泉、そして美しい自然景観が魅力的な街です。

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