ユノに欺かれるイクシオン

『ユノに欺かれるイクシオン』

ピーテル・パウル・ルーベンスによって1620年頃に制作された油彩画『ユノに欺かれるイクシオン』は、ギリシア神話を題材としたバロック期の傑作です。この作品は、ラピテス族の王イクシオンが、神々の女王ヘラ（ローマ神話のユノ）に抱いた不遜な恋心と、その顛末を描いています。現在、パリのルーヴル美術館に所蔵されています。

主題

ギリシア神話において、イクシオンは親族殺しという罪を犯した最初の人物として知られています。彼は義父への結婚の持参金を支払わなかったことで争いとなり、義父を殺害しました。この行為は神々や人々から忌み嫌われ、誰も彼の罪を浄化しようとしませんでした。しかし、大神ゼウス（ローマ神話のユピテル）はイクシオンの罪を許し、彼をオリンポスに招き、不死のアムブロシアを与えました。にもかかわらず、イクシオンは恩を忘れ、ゼウスの妻であるヘラに恋慕しました。ゼウスはこれを見抜き、雲でヘラに似せた偽のヘラ（ネペレ）を作り、寝室に置きました。イクシオンはこれと交わったため、車輪に縛られ、冥府で永遠に回転する罰を受けました。また、イクシオンとネペレからはケンタウロス族が生まれたとされています。

作品

イクシオンを主題とする絵画では、罰を受ける場面を描くのが一般的ですが、ルーベンスはユピテルの妻ユノに対するイクシオンの不遜な恋に焦点を当てています。画面左端で、イクシオンは雲に座り、ユノを抱きしめようとしています。しかし、それはイクシオンの恋心を罰するためにゼウスが送った偽のユノ（ネペレ）です。画面右側には、本物のユノが燃える松明を持つキューピッドに導かれて、ユピテルのもとへ立ち去ろうとしています。彼女が本物であることは、足元にユノの象徴である孔雀が描かれていることで示されています。虹の女神イリスは、ユノと偽のユノの間に立ち、イクシオンとネペレに赤いヴェールをかけています。ルーベンスは、イリスにキツネの毛皮をまとわせています。これは、イタリアの図像学者チェーザレ・リーパによると、キツネが狡猾さと虚偽の象徴であるためです。画面左奥には、復讐の女神フリアイがイクシオンに罰を与えるべく待ち構えています。ルーベンスは、イタリアから帰国後に実践していた重厚で力強いポストマニエリスム様式でこの作品を描いています。

来歴

この絵画は18世紀にアムステルダムの収集家ダーフィット・アーモレイによって所蔵されていたことが知られています。オランダの美術収集家ランベルト・テン・ケイトは1711年にこの作品を見ており、画家ヘンドリック・ファン・リンボルフに宛てた手紙の中でそのことを述べています。テン・ケイトによると、この作品はフランドルにあったものを美術商がオランダに持ち込み、アーモレイに売却したとのことです。その後、アーモレイはアンソニー・ヴァン・ダイクの『サムソンとデリラ』とともにこの作品を売却しました。これらを購入したのはイギリスの準男爵グレゴリー・ペイジでした。ペイジのコレクションでは、『ユノに欺かれるイクシオン』と『サムソンとデリラ』は対作品として組み合わされました。その後、ペイジの遺産を相続した第3代準男爵グレゴリー・ペイジ＝ターナーはコレクションを売却し、絵画はウェルボア・エリス・エイガー、第2代ウェストミンスター公爵ヒュー・リチャード・アーサー・グローヴナー、アメリカの起業家チャールズ・ヤーキスのコレクションを経て、最終的にバジル・ド・シュリヒティング男爵の手に渡り、1914年の男爵の死後、ルーヴル美術館に遺贈されました。

影響

ルーベンスと同時代の版画家ピーテル・ファン・ソンペルは、この作品の素描による複製を制作しました。これは、絵画がまだルーベンスの工房にあった頃に描かれたもので、黒のチョークと薄い灰色でスケッチされた後、ルーベンス自身によって加筆修正が加えられたと考えられています。この素描は現在、アムステルダム国立美術館に所蔵されています。ファン・ソンペルはまた、この作品のエングレーヴィングも制作しています。

ギャラリー

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脚注

参考文献

『ギリシア悲劇全集10 アイスキュロス断片』「イクシーオーン」川崎義和訳、岩波書店（1991年）
ディオドロス『神代地誌』飯尾都人訳、龍溪書舎（1999年）
ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』松田治・青山照男訳、講談社学術文庫（2005年）
ピンダロス『祝勝歌集／断片選』内田次信訳、京都大学学術出版会（2001年）
ルキアノス『神々の対話 他六篇』呉茂一・山田潤二訳、岩波文庫（1953年）
『ルーヴル美術館展 17世紀ヨーロッパ絵画』ルーヴル美術館、国立西洋美術館、京都市美術館、日本テレビ放送網（2009年）

外部リンク

ルーヴル美術館公式サイト, ピーテル・パウル・ルーベンス『誘惑しようとしていたユノに欺かれるラピテス族の王イクシオン』

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