ユリウス・アスクレピオドトゥス

ユリウス・アスクレピオドトゥス：ローマ帝国の軍人、そして伝説の王

ユリウス・アスクレピオドトゥスは、激動の時代を生きたローマ帝国の軍人であり政治家です。『ローマ皇帝群像』によれば、彼はアウレリアヌス帝、プロブス帝、ディオクレティアヌス帝の時代にプラエフェクトゥス・プラエトリオ（近衛長官）を務め、292年には執政官にも選出されました。彼の名は、特に296年のブリタンニア奪還作戦において、重要な役割を果たしたことで歴史に刻まれています。

ブリタンニア奪還作戦での活躍

293年にカラウシウスを暗殺し、ブリタンニアを支配していたアレクトゥスに対し、西ローマ皇帝コンスタンティウス・クロルスはブリテン島の奪回を目指し侵攻を計画します。296年、コンスタンティウスがボノニア（現在のブローニュ＝シュル＝メール）から海を渡る間、アスクレピオドトゥスは別の艦隊を率いて、サン・ダン・サンドヴィルとル・アーヴル近郊の都市から兵を徴収し、霧に紛れてワイト島沖でアレクトゥスの艦隊を突破することに成功します。そして、サウサンプトン水路か、チチェスター近傍に上陸し、アレクトゥスの船を焼き払いました。

アレクトゥスは海岸からの撤退を図りますが、コンスタンティウス軍によって分断され、ついに敗北します。濃霧によって本隊とはぐれてしまったコンスタンティウスの部隊は、ロンディニウム（現在のロンドン）でアレクトゥスの残党を捕らえ、これを殲滅しました。この功績により、アスクレピオドトゥスの名声は大いに高まりました。また、彼がディオクレティアヌス帝の伝記を書いたアスクレピオドトゥスと同一人物である可能性も指摘されています。

中世イングランドの伝説におけるアスクレピオドトゥス

興味深いことに、アスクレピオドトゥスは中世イングランドの伝説にも登場します。ジェフリー・オブ・モンマスの著書『ブリタニア列王史』(1136年)では、彼はローマ人アレクトゥスに対抗し、王位に就いたコーンウォール公として描かれています。物語によれば、彼はロンディニウム近郊でアレクトゥスを打ち破り、殺害。残された兵士たちを包囲します。ローマ軍は最終的にブリテン島からの安全な撤退を条件に降伏を申し出ますが、アスクレピオドトゥスはこれを受け入れます。しかし、彼の同盟者であるウェネドティアの兵士たちが残兵を攻撃し、彼らの首を刎ねてガロブロック川（現在のウォルブルック川）に投げ捨てたと言われています。

その後、アスクレピオドトゥスは正式に王となり、10年間公正な統治を行ったとされています。しかし、彼の治世はディオクレティアヌス帝によるキリスト教迫害の時代と重なっており、ジェフリーは聖アルバンがこの時代に殉教したと記述しています。これらの残虐行為に対し、コルチェスター公コールがアスクレピオドトゥスに対して反乱を起こし、彼を殺害して王位を奪ったと伝えられています。

ユリウス・アスクレピオドトゥスは、史実と伝説が交錯する興味深い人物です。ローマ帝国の軍人、政治家としての顔を持つ一方で、中世イングランドの伝説ではブリテンの王として語り継がれています。彼の生涯は、激動の時代における人々の記憶と想像力が織りなす、複雑な歴史の一面を映し出していると言えるでしょう。

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