ユリウス3世 (ローマ教皇)

ユリウス3世：ルネサンス期教皇の生涯と業績

ユリウス3世（Julius III, 1487年 9月10日 - 1555年 3月23日）は、ルネサンス教皇の最後の一人とされ、対抗宗教改革期にローマ教皇を務めた人物です。本名はジャンマリア・チオッキ・デル・モンテといい、その生涯は政治と宗教、そして芸術への情熱が複雑に絡み合っていました。

生い立ちと教会でのキャリア

ジャンマリア・デル・モンテは、ローマで高名な法律家の息子として生まれました。シエナ大学で法律を学んだ後、1512年に伯父の跡を継ぎ、教皇ユリウス2世によってシポントの大司教に任命されました。さらに1520年からはパヴィアの司教も兼任するなど、早い段階から教会内で重要な地位を占めていました。

1527年にローマ略奪が起こると、クレメンス7世側の人質として神聖ローマ帝国軍に差し出され、他の人質と共に殺害される寸前まで追い詰められましたが、コロンナ家のポンペオ枢機卿の尽力により秘密裏に解放されました。この経験は、彼の後の人生に大きな影響を与えたと考えられます。

1536年には、パウルス3世によってパレストリーナの名義司教（司教枢機卿）に任命され、教皇のブレーンとして活躍しました。1545年には、トリエント公会議の開会時に議長と教皇特使を務め、教皇派の枢機卿のリーダーとして、皇帝派との議論を主導しました。1547年には公会議をボローニャに移転させたことで、神聖ローマ皇帝カール5世の反感を買うこととなりました。

教皇選出とトリエント公会議

パウルス3世の死後、コンクラーヴェは皇帝派、フランス派、ファルネーゼ家の支持者の三つの派閥に分かれて激しく争いました。10週間に及ぶ選挙の末、各派の妥協案としてデル・モンテが新教皇に選出され、恩人であるユリウス2世の名を継いでユリウス3世を名乗りました。

教皇としてまず行ったのは、前教皇パウルス3世の孫であるオッターヴィオ・ファルネーゼをパルマ公として承認することでした。また、芸術のパトロンとしても知られ、神学者としての側面よりも芸術と建築の愛好家として記憶されることが多くなりました。特に音楽を愛し、作曲家ジョヴァンニ・ダ・パレストリーナをローマに招き、「マエストロ・ディ・カッペラ」に任命したことは有名です。

中断されていたトリエント公会議は、ユリウス3世がカール5世の申し入れを受け入れる形で1551年に再開されました。教皇はカール5世と手を組み、フランスとパルマ公国に対抗しようとしましたが、フランスは公会議の再開に強く反対していました。そのため、この会期にはフランスの司教たちはほとんど参加しませんでした。

しかし、1552年にザクセン選帝侯モーリッツが勝利し、カール5世の勢いが弱まると、ユリウス3世はフランスとの妥協を選び、再開されていた公会議を再び休会しました。トリエント公会議は、3代後のピウス4世によって再開されるまで中断されました。

教皇としての晩年とスキャンダル

教皇就任当初、教会改革への強い意欲を示したユリウス3世でしたが、次第に教会政治への熱意を失い、芸術や享楽に関心を移しました。ミケランジェロ・ブオナローティをサン・ピエトロ大聖堂の主任建築家に任じましたが、特に建築家ジャコモ・バロッツィ（ヴィニョーラ）に建築させたヴィラ・ジュリアでは、取り巻きと共に華やかな生活を送っていました。

また、パルマの街で拾った17歳の少年インノチェンツォを自分の兄弟の養子とし、枢機卿に任命したことは大きな非難を浴びました。ベレー枢機卿の随員であったフランスの詩人ジョアシャン・デュ・ベレーは、教皇のスキャンダルを自身の詩の中に織り込んで発表しました。

一方で、ユリウス3世はイエズス会の良き理解者でもあり、1550年に特別な保護を与えました。1552年には、ドイツ人司祭養成を図るために創設したコレギウム・ゲルマニクムをイエズス会へ委託しました。彼は、トリエント公会議の議決を勅書という形で発布し、実効させようと考えていましたが、それは実現しないまま1555年 3月23日に67歳でこの世を去りました。後を継いだマルケルス2世は急死し、パウルス4世が選出されました。

まとめ

ユリウス3世は、その生涯において、政治的な駆け引き、宗教的な使命、そして芸術への情熱が複雑に絡み合った人物でした。トリエント公会議での役割、芸術のパトロンとしての活動、そして晩年のスキャンダルは、彼をルネサンス期の教皇として記憶される重要な要素です。彼の業績は、当時の教会と社会の状況を理解する上で貴重な資料となっています。

参考文献：

インドロ・モンタネッリ、ロベルト・ジェルヴァーゾ著、藤沢道郎訳『ルネサンスの歴史下反宗教改革のイタリア』中央公論社、1982年。
ジャコモ・バロッツィ・ダ・ヴィニョーラ著、長尾重武編『建築の五つのオーダー』中央公論美術出版、1984年。
P.G.マックスウェル・スチュアート著、月森左知・菅沼裕乃訳、高橋正男監修『ローマ教皇歴代誌』創元社、1999年。
マシュー・バンソン著、長崎恵子・長崎麻子訳『ローマ教皇事典』三交社、2000年。
学校法人上智学院新カトリック大事典編纂委員会編『新カトリック大事典第4巻』研究社、2009年。
アドリアーノ・プロスペリ著、大西克典訳『トレント公会議その歴史への手引き』知泉書館、2017年。
* 石鍋真澄『教皇たちのローマルネサンスとバロックの美術と社会』平凡社、2020年。

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