ヨハネス23世 (対立教皇)

教会大分裂期の対立教皇：ヨハネス23世の生涯と遺産

14世紀から15世紀初頭、キリスト教世界は「教会大分裂」という未曽有の危機に直面していました。この混乱期に、3人の教皇が同時に存在するという異例の事態が発生。その一人として歴史に名を刻んだのが、対立教皇ヨハネス23世です。本名バルダッサーレ・コッサとして、1370年頃にナポリで生まれた彼は、波乱に満ちた生涯を送りました。

不穏な出自と華麗なる出世

ヨハネス23世の出自は謎に包まれています。ボローニャ大学で学んだ後、海賊や軍人として活動したという説も存在するほどです。しかしながら、彼は卓越した政治手腕を発揮し、ローマ教皇庁での出世を果たします。1396年には助祭長、1402年には枢機卿に昇進。1403年から1408年にかけてはボローニャの教皇特使を務めるなど、着実に地位を築き上げていきました。一方で、その上昇志向と品行には常に影が付きまとっていました。ボローニャでの不適切な関係の噂などが囁かれ、彼の私生活には多くの謎が残されています。

教皇への道と政治的駆け引き

1409年、ピサ教会会議で選出されたアレクサンデル5世が翌年急死すると、コッサはメディチ家の強力な支援を受け、教皇の座に就きます。アレクサンデル5世の死には、コッサが関与したという疑惑もささやかれました。メディチ銀行は教皇庁との深い繋がりを持ち、巨額の利益を得ていました。教皇庁の財務管理を任されるなど、その影響力は絶大なものでした。

ヨハネス23世は、ローマ王位継承にも介入しました。当時、ローマ王ループレヒトの死後、後継者争いが激化していました。ヨハネス23世はジギスムントを支持し、彼のローマ王選挙への勝利に貢献します。これはナポリ王ラディズラーオに対抗する政治的戦略の一つでした。

フス派との対立とローマからの追放

ヨハネス23世は、宗教改革の先駆者であるヤン・フスとの対立も深めていきます。プラハ大司教ズビニェク・ザイーツがフスを異端と訴え、その訴えを受け入れたヨハネス23世は、フスの著書の焼却を命じ、彼を破門します。この行為は、ボヘミアにおける宗教的緊張を高めることになります。

フスへの弾圧はさらに激化し、ヨハネス23世は贖宥状の販売によってフスの反発を招き、彼をプラハから追放しようとします。しかし、ラディズラーオの軍勢にローマを奪われ、フィレンツェへ逃亡を余儀なくされるなど、状況はヨハネス23世にとって不利に展開していきます。

コンスタンツ公会議と悲劇的な最期

教会大分裂の終結を望むジギスムント皇帝の圧力を受け、ヨハネス23世はコンスタンツ公会議を招集します。しかし、公会議の展開は彼の期待とは異なるものとなりました。自分の立場が危うくなると、彼はコンスタンツから逃亡を試みますが、捕らえられ、廃位宣告を受けます。様々な罪状で告発されましたが、これらの多くは捏造されたものだと考えられています。

4年間の投獄生活の後、釈放されたヨハネス23世はトゥスコロ司教に任命されますが、1419年12月22日、フィレンツェで死去しました。彼の墓碑には「かつて教皇であったヨハネス23世」と記されており、彼の複雑な歴史を示しています。

ヨハネス23世という名前

対立教皇ヨハネス23世の死後、正規の教皇としてヨハネス23世の名が使用されるまで、500年以上もの歳月が流れました。この間、教皇ヨハネスの称号の付番には混乱があり、歴史的な誤解が積み重なっていたのです。1958年、ようやく正規の教皇としてヨハネス23世が選出されましたが、その際も、称号の修正は行われず、歴史の複雑さを物語っています。

ヨハネス23世の生涯は、教会大分裂という激動の時代における権力闘争、宗教的対立、そして政治的駆け引きを象徴するものです。彼の波乱に満ちた人生と、その後の教皇名への影響は、中世ヨーロッパ史における重要な一章を形成しています。

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