ラジオ歌謡

ラジオ歌謡は、日本のNHKラジオ第1放送で、1946年5月1日から1962年3月3日まで放送された歌番組、および同番組で発表された楽曲群を指します。その発案は、NHK大阪中央放送局（JOBK）によるものでした。

成り立ちと目的

ラジオ歌謡は、戦時中に戦意高揚や思想統制の手段として利用されてしまった「国民歌謡」の反省から生まれました。本来、国民歌謡は「健全な歌を通じて国民の音楽文化を高める」ことを目指していましたが、その目的が歪められた経験を踏まえ、ラジオ歌謡は再びその初心に立ち返り、戦後の混乱期にある国民に良質な音楽を提供し、心の慰めと希望を与えることを目指しました。

また、終戦直後に大ヒットした映画『そよかぜ』の主題歌「リンゴの唄」が、貧困と疲弊の中で暮らす人々に大きな勇気を与えたことも、ラジオ歌謡の企画・開始を後押しした要因の一つと言われています。

番組内容と特徴

番組は大阪放送局によって発案・制作が始まりましたが、やがて東京放送局（JOAK）でも制作されるようになり、約16年間の放送期間を通じて800曲近くもの楽曲が発表されました。そのうち大阪で制作されたのは180曲です。

ラジオ歌謡の特色として、単に楽曲を放送するだけでなく、アナウンサーが歌詞を丁寧に朗読したり、歌詞に含まれる難しい言葉を解説したり、さらには歌い方のアドバイスを行ったりしました。これは、ラジオ放送だけでは歌の言葉が聞き取りにくく、「耳学問」で誤って覚えてしまうことを防ぐための、聞き手に対する細やかな配慮でした。

歌謡曲だけでなく、歌曲「夫婦善哉」のような劇が放送されたこともあります。発案元の大阪放送局には、番組のために専属の管弦楽団と合唱団が組織されており、楽曲制作を支えました。

楽曲と制作者たち

ラジオ歌謡では、当時を代表する多くの著名な作曲家や作詞家が楽曲制作に携わりました。主要な作曲家としては、高木東六、團伊玖磨、古関裕而、服部良一、清水脩、芥川也寸志などが挙げられます。彼らの手によって、叙情豊かで心温まる名曲が数多く生み出されました。

記念すべき第1作は、番組開始の1946年5月に発表された「風はそよかぜ」です。その後も、「朝はどこから」「三日月娘」「あざみの歌」「山小舎の灯（ともしび）」「さくら貝の歌」「森の水車」「雪の降るまちを」など、現在でも叙情歌として広く親しまれている作品が多数登場しました。

また、1953年には、当時16歳だった歌手・美空ひばりが番組に登場し、「あまんじゃくの歌」を歌ったことでも知られています。

社会への影響

ラジオ歌謡の成功は、戦後に次々と開局した民間のラジオ放送局にも大きな影響を与えました。例えば、大阪の朝日放送は、ラジオ歌謡に対抗する形で、呉羽紡績（現・東洋紡績）の協賛を得て、民放版ラジオ歌謡ともいえる「クレハ・ホームソング」を企画・制作しました。この「クレハ・ホームソング」からも、「踊子」（三浦洸一）、「川は流れる」（仲宗根美樹）、「白いボール」（王貞治・本間千代子）、「ふるさとのはなしをしよう」（北原謙二）といったヒット曲が生まれています。

番組の終焉

1960年代に入ると、テレビの普及などメディア環境が変化し、ラジオの看板番組が次々とその姿を消すようになります。ラジオ歌謡もその時代の流れの中で、1962年3月3日をもって16年間の放送に幕を下ろしました。しかし、その精神は引き継がれ、1961年からは新たな趣向の音楽番組『みんなのうた』が放送を開始しています。

ラジオ歌謡は、戦後復興期の日本において、人々の心に寄り添い、希望を与えた音楽番組として、その歴史に大きな足跡を残しました。

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