ラナ家

ラナ家

ネパール王国において、1846年から1951年にかけて事実上の王家として君臨した宰相家です。正式にはシャハ王朝の国王が存在しましたが、ラナ家は宰相職を世襲し、行政、立法、司法の全てを掌握して独裁権力を振るいました。このため、国内外からは事実上の支配者、あるいは「ラナ王朝」として認識されていました。その支配は、国王トリブバンによる王政復古までの104年間に及びます。

概要

ラナ家の支配体制は、形式的な国王を戴きながら実権を宰相が握るという構造でした。これは、日本の平安時代における摂関政治や、江戸時代の朝廷と幕府による二重権力関係に類似していることから、「ネパールの藤原氏」あるいは「ネパールの徳川幕府」と比喩されることがあります。また、イスラーム世界のカリフとスルターンの関係や、キリスト教世界の教皇と皇帝の関係にもわずかに類似するとされます。

シャハ王家の国王が「シュリ・パンチ（Shri Panch）」や「マハラージディラージ（Maharajdiraj）」といった格式高い称号を用いたのに対し、ラナ宰相家の当主は「シュリ・ティーン（Shri Teen）」や「マハラージャ（Maharaja）」といった称号を持っていました。文化的には、ヒマラヤ山地の住民が仏教やボン教の伝統に根ざしているのとは対照的に、シャハ家もラナ家もともにヒンドゥー教の伝統に従い、カースト制度においてはラージプートに属していました。

歴史

祖先

ラナ家の祖とされるジャンガ・バハドゥル・ラナは、ラーム・シンハ・クンワルの末裔とされています。さらに遡ると、インドのチットール（メーワール王国としても知られる）の王族バーパー・ラーウラに行き着くとされます。本来の家名はラナであったものの、ネパールでは北インドのラージプート王族を示す称号である「クンワル」が家名として誤って認識されていたといいます。

ラナ家の歴史において特筆すべき祖先には、以下のような人物がいます。

ラーム・クリシュナ・クンワル: 18世紀にネパール統一事業を進めたプリトビ・ナラヤン・シャハ王に重要な軍事指導者として仕えました。
ラナジット・クンワル: ジュムラ地方の制圧に貢献したほか、1791年から1792年にかけて戦われた清・ネパール戦争においても重要な役割を果たしました。
バール・ナラシンハ・クンワル: 1806年に宮廷内で法王ラナ・バハドゥル・シャハが暗殺される事件が発生した際、暗殺者である法王の弟シェール・バハドゥル・シャハを即座に殺害しました。この功績により、「カージー（執政）」の称号を与えられ、それは子孫に代々受け継がれることになりました。

ジャンガ・バハドゥルと権力掌握

バール・ナラシンハの息子であり、ネパールの英雄として知られる宰相ビムセン・タパを母方の祖父に持つジャンガ・バハドゥル・クンワル（後にラナに改姓）は、ラナ王朝と呼ばれる体制の初代となります。1846年、彼は宮廷内の激しい権力闘争を制し、有力貴族を排除。国王ラジェンドラを追放し、スレンドラ王を傀儡として擁立することで、王国の実権を完全に掌握しました。

ジャンガ・バハドゥルは、その弟ラノッディープ・シンハとともに、ネパール社会の近代化と改革にも取り組みました。奴隷制の廃止や不可触民の地位向上、教育の普及などがその例です。しかし、1885年にラノッディープ・シンハの甥にあたるビール・シャムシェルらによるクーデターが発生し、ラノッディープ・シンハやジャンガ・バハドゥルの息子たちが殺害されると、改革の試みは頓挫しました。

ラナ家の独裁体制と終焉

ラノッディープ・シンハを殺害したシャムシェル・ラナ家は、その名前に「ジャンガ・バハドゥル」を加えて宰相の地位を世襲しました。彼らはジャンガ・バハドゥルの功績を自己のものとする形でネパールを支配しましたが、この体制はネパールの近代化を遅らせる一因になったと指摘されています。

イギリスがインドを支配していた時代、ラナ家はイギリスから手厚い礼遇を受けました。当主たちは19発の礼砲を受ける地位を与えられ、デーブ・シャムシェルという短期間で宰相を追われた人物を除き、全員にナイト爵が授与されています。

ラナ家の支配は、1951年にトリブバン国王が王政復古を達成したことで終焉を迎えました。しかし、その後もラナ家はシャハ王家との婚姻や経済的な結びつきを通じて、ネパールの宮廷内で大きな影響力を持ち続けました。例えば、2001年のネパール王族殺害事件で命を落とした第10代国王ビレンドラの王妃アイシュワリヤや、第9代国王マヘンドラの二人の王妃インドラとラトナは、いずれもラナ家の出身でした。

参考文献

佐伯和彦『ネパール全史』明石書店、2003年。

関連項目

ネパールの首相
シャハ王朝

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