チャクリー改革

チャクリー改革：タイ近代化への道

チャクリー改革とは、タイのチャクリー王朝のラーマ5世（チュラーロンコーン大王）によって、19世紀後半に行われた一連の近代化政策を指します。狭義にはラーマ5世の改革を指しますが、広義にはラーマ4世（モンクット王）の近代化政策からラーマ6世（ワチラーウット王）までの改革を包含します。本稿では、特にラーマ5世による狭義のチャクリー改革に焦点を当て、その背景、具体的な改革内容、そしてその結果について詳しく解説します。

改革の背景

ラーマ5世は1868年、わずか15歳で即位しましたが、その初期は有力貴族ブンナーク家の影響下にありました。当時のタイには副王制度があり、王が不在の際に政治を代行する役職でしたが、実際にはブンナーク家の承認を得てウィチャイチャーン副王が即位するという事態が生じました。これに危機感を抱いたラーマ5世は、1873年に親王たちによる青年組織「ヤング・サイアム」を結成し、機関紙『ダルノーワート』を通じてブンナーク家と癒着した副王を批判。副王のクーデター未遂事件を経て、ラーマ5世は王権強化の必要性を痛感しました。

当時の地方行政は、知事（チャオムアン）が地域の内政を掌握し、財政的にも中央政府と連携しておらず、地方の王国も存在していました。このような状況は、内戦や欧米列強による侵略の危険性を孕んでおり、ラーマ5世は近代的な国家運営の必要性を強く感じました。1882年に摂政ブンナークが、1885年には副王が亡くなったことを機に、ラーマ5世は王族を登用し、本格的な改革に着手しました。

改革の内容

奴隷・人民解放

ラーマ5世は、タイに存在した「タート」と呼ばれる契約奴隷を解放し、平民に加えました。タートは売買も可能であり、当時の貴族の主要な財産でしたが、ラーマ5世は人道的見地からこれを廃止しました。また、地方で知事の監督下にあった「プライ」と呼ばれる人民も解放しました。これらの施策は、タイの国際的な評価を高め、「野蛮な国」というイメージを払拭し、後の不平等条約改正を有利に進める要因となりました。この業績から、ラーマ5世は「歓喜大王」の称号を得て、現在でも国民から敬愛されています。

教育制度

ラーマ5世は、国家を近代化するために、人材育成が不可欠であると考え、教育制度の拡充に力を入れました。王室学校の拡充、義務教育の導入、王室子弟の海外留学の促進など、近代国家にふさわしい人材育成を目指しました。海外留学は、現在でもタイ社会では一種のステータスとなっており、官僚の多くが海外留学経験者です。

軍事

ラーマ5世は陸軍を中心に軍隊を近代化しました。これは、地方の反乱鎮圧や、欧米列強の侵略に備えるためのものでした。軍事改革は一定の成果を上げましたが、一方で、エリート化した軍隊が後の軍事政権台頭の一因となった点も看過できません。

交通・通信

ラーマ5世は、鉄道や道路を整備し、国内の統一化を図りました。また、電話、電信、郵便、水道などのインフラ整備も進め、近代化を加速させました。

地方行政

ラーマ5世は、地方の権力者による委任政治を廃止し、州制（モントン）を導入しました。州の下には県（ムアン）、郡（アンプー）、町（タンボン）、村（ムーバーン）を置き、中央集権体制を確立しました。この行政改革は、後の国境策定において有利に働き、欧米列強の侵略を食い止める一因となりました。

領土割譲

改革を進める一方で、領土割譲という大きな代償も払いました。現在のカンボジア、ラオスをフランスに、マレー半島の一部をイギリスに割譲せざるを得ませんでした。しかし、タイが一定の近代化を成し遂げていたこと、イギリスとフランスの緩衝地帯として機能していたことなどから、植民地化は免れることができました。

改革の結果

チャクリー改革は、おおむね成功したと言えるでしょう。ブンナーク家の支配から脱却し、王権を確立し、欧米列強の侵略を免れることができました。ラーマ5世は、日本の明治天皇と同時代に近代化を成し遂げた君主として、しばしば比較されます。しかし、強権的な中央集権化や軍事力強化は、地方反乱を招いたり、軍事政権台頭の原因となるなど、負の側面も残しました。現在でも、タイ南部を中心に反政府運動が続いています。

チャクリー改革は、タイの近代化を推し進めた重要な改革であり、その後のタイ社会に大きな影響を与えました。

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