リムサウルス

リムサウルス：歯のない草食恐竜の謎

リムサウルス（Limusaurus、学名：泥のトカゲの意）は、中国西部ジュンガル盆地で発見されたジュラ紀後期の獣脚類恐竜です。全長約1.7メートルと小型で、最も特筆すべき特徴は、その歯がないこと。これにより、リムサウルスは草食性であったと推測されています。

発見と化石

リムサウルスは、2009年に徐星らによってネイチャー誌で発表されました。現在、発見されているのはほぼ完全な骨格のホロタイプと、頭部が欠損しているもののほぼ完全な骨格の標本、そして可能性のある第3の標本です。これらの標本はいずれも亜成体のもので、骨の成長線から年齢を推定することも可能です。

系統分類と進化

リムサウルスは、ケラトサウルス類に分類されます。このグループでは初期の種であり、コエロフィシス科やテタヌラ類との共通点も多く見られます。系統解析の結果、ケラトサウルス類とテタヌラ類の両クレードの間の進化的な関係が示唆されました。

生態

リムサウルスは、他のケラトサウルス類やコエロフィシス科とは異なる特徴も持ち合わせています。代表的なものは、先に述べた歯がないことです。代わりに、完全なくちばしを持っていたと推測され、この構造はそれまで白亜紀のコエルロサウルス類でのみ確認されていました。また、長い首、短い前肢、細長い後肢を持ち、走ることが得意だったと考えられています。腹部からは胃石が見つかっており、これら全ての証拠から草食性が示唆されます。

リムサウルスは、白亜紀のオルニトミムス類や三畳紀の非恐竜主竜類エッフィギアと形態が類似しており、これは主竜類の異なる3つのグループで平行進化が起こった注目すべき事例と考えられています。

手の構造と指の進化

リムサウルスは、4本の指（第1～4指）を持つという、基部のケラトサウルス類の特徴を持っています。第1指は著しく縮小していますが、残りの指は大きく発達しています。これは、鳥類の翼の進化に関する従来の説と矛盾する可能性があります。従来は、鳥類の翼は手の外側の2本の指が消失することで進化したと考えられていましたが、リムサウルスの手の構造は、鳥類を含むテタヌラ類のそれと類似しているため、新たな議論を呼び起こしました。

具体的には、リムサウルスの手の構造は、双側性指減少(BDR：Bilateral Digit Reduction)という現象を示唆しています。これは、左右対称に指が減少する現象で、これまでは獣脚類では側方指減少(LDR：Lateral Digit Reduction)と呼ばれる、片側から指が減少する現象が主流と考えられていました。リムサウルスの発見は、BDRが獣脚類の進化においても重要な役割を果たした可能性を示唆し、テタヌラ類の指の命名法や進化の過程に関する再考を促すものです。しかし、形態上の類似性から、古生物学者がテタヌラ類の指を従来の命名法から変更する可能性は低いと考えられています。鳥類の翼の進化については、近年の遺伝子発現や実験データに基づく新たな解釈も存在します。

結論

リムサウルスは、そのユニークな特徴と、恐竜の進化に関する既存の仮説に疑問を投げかける存在です。歯のない草食性という特異な生態、そして指の進化に関する新たな視点をもたらし、ジュラ紀後期の恐竜相や進化の理解を深める上で、非常に重要な発見となっています。今後の研究で、さらなる情報が明らかになることが期待されます。

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