リンクス (宇宙船)

概要

リンクス（Lynx）は、アメリカ合衆国の宇宙ベンチャー企業であるXCORエアロスペースが開発を進めていた、弾道軌道での飛行を目的とした再使用型の有人宇宙船です。この機体はロケット推進力を利用し、通常の航空機と同様に滑走路から水平に離陸・着陸を行うロケットプレーンという特徴的な方式を採用していました。その主な目標は、一般の人々が宇宙を体験できる弾道宇宙旅行を実現することにありました。

リンスは、操縦士1名と搭乗者（乗客またはペイロードオペレーター）1名の計2名が搭乗できる設計でした。宇宙旅行だけでなく、科学研究のための微小重力実験装置や、小型の人工衛星などを高度100キロメートルを超える宇宙空間へ輸送する能力も計画に含まれていました。商業運航が実現した場合、一人当たりの搭乗費用は95,000ドル程度が想定されていました。

歴史

リンクスの構想に先立つこと2003年、XCORはゼラス（Xerus）と呼ばれる亜軌道宇宙機の概念を発表していました。このゼラスは、操縦士1名と乗客1名に加え、科学実験機器を搭載できる仕様が想定されており、さらに弾道軌道の最高到達点で切り離される上段ロケットを搭載することで、人工衛星を地球低軌道へ投入する可能性も示唆されていました。2007年においても、XCORは引き続き2人乗りの将来型スペースプレーンの構想をゼラスと称していました。

リンクスの具体的な開発計画は2008年3月26日に公表され、当初は発表から2年以内の初飛行を目指すとしていました。しかし、開発は計画通りに進まず、技術的な課題や資金調達の難しさから、打ち上げ予定は繰り返し延期されました。開発が長期化する中で、2016年5月には、XCORは全従業員の約3分の1を解雇し、今後の事業の主軸をユナイテッド・ローンチ・アライアンス（ULA）社とのロケットエンジン共同開発に移すことを表明しました。そして、最終的に経営状況が改善せず、2017年11月には連邦倒産法第7章（チャプター7）の適用を受け破産手続きに入りました。これにより、リンクス計画は実現に至ることなく終焉を迎えました。

設計

リンクスは機体後部胴体に、液体酸素とケロシンを推進剤とする4基の液体ロケットエンジンを搭載していました。各エンジンは13,000ニュートンの推力を発生させ、合計で52,000ニュートンの推力で機体を加速させる設計でした。

開発は段階的に進められる予定で、複数のモデルが構想されていました。

Mark I プロトタイプ：
試作機として計画されていた初期型です。目標とする最高到達高度は62キロメートルでした。内部空間には最大120キログラム、機体上部の背負式拡張ポッドには最大280キログラムのペイロードを搭載できる能力がありました。その他にも、操縦席内のわずかな空間や機体外部後方の2箇所にも小さなペイロードスペースが設けられていました。酸化剤タンクにはアルミニウムが使用される予定でした。

Mark II プロダクションモデル：
商業運航を視野に入れた実用機として想定されていました。目標とする最高到達高度は国際的な宇宙空間の定義とされるカルマン線を超える100キロメートル以上でした。内部ペイロード能力はMark Iと同様の120キログラムで、その他のペイロードスペースもMark Iと同じ仕様でした。姿勢制御システム（RCS）には、環境負荷の少ない非ヒドラジン系のスラスター（3N22）が採用される予定でした。特に酸化剤タンクには、XCORが独自に開発したフッ素重合体複合材料「ノンバーナイト（Nonburnite）」が使用される計画でした。

* Mark III：
基本的にはMark IIと同等の機体ですが、拡張ポッドのペイロード能力が650キログラムへと大幅に拡大されていました。この増強されたペイロード能力を活用し、機体上部に搭載した2段目ロケットで小型衛星や複数のナノサットを地球低軌道へ投入するという、より発展的な利用構想も存在しました。

関連事項

リンクスは、ユニリーバ社の男性向けブランド「AXE（アックス）」が実施したグローバルキャンペーンにおいても注目を集めました。このキャンペーンのために、リンクスによる宇宙飛行の座席22名分が購入され、2013年にはこのキャンペーンを通じて日本を含む世界各国から一般の参加者が「民間宇宙飛行士」として選ばれる企画が行われました。

また、リンクス計画が登場する以前ではありますが、民間の宇宙旅行ビジネス黎明期に関連する動きとして、日本のテレビ番組「日経スペシャルガイアの夜明け」（2005年12月6日放送）で民間の宇宙旅行ビジネスが取り上げられた際に、開発元のXCORエアロスペースが紹介されたことがあります。

開発の遅延と資金難、最終的な企業の破産により、リンクスが実際に宇宙へ飛び立つことはありませんでしたが、民間による弾道宇宙旅行や再使用型宇宙船の開発における重要な試みの一つとして記憶されています。

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