ルイス・スローティン

ルイス・スローティン：天才科学者と悲劇の臨界事故

ルイス・アレクサンダー・スローティン（1910年12月1日-1946年5月30日）は、カナダ出身の卓越した物理学者、化学者でした。類まれな才能を持ち、輝かしい経歴を歩んだ彼の人生は、マンハッタン計画における臨界事故という悲劇的な結末を迎えます。本稿では、スローティンの生涯、そして彼の業績と死を巡る詳細な情報を記述します。

幼少期と教育

スローティンは、ロシア帝国からの亡命者である両親のもと、カナダ・マニトバ州ウィニペグで生まれました。幼少期から並外れた学力を見せ、マニトバ大学に進学。物理学と化学の両分野で大学金メダルを受賞し、1932年に地質学の学士号、1933年に修士号を取得しました。その後、キングス・カレッジ・ロンドンで、電気化学と光化学の権威であるアーサー・ジョン・アルマンドの下で研究を続け、物理化学の博士号を取得しました。

キングス・カレッジとスペイン内戦

キングス・カレッジ在学中はアマチュアボクサーとして活躍し、大学バンタム級チャンピオンにも輝きました。その後、スペイン内戦に参戦するも、戦闘に参加したというよりは、スリルを求めてスペインを訪れたという説もあります。内戦経験を経て、彼はダブリンのグレートサザンレールウェイでニッケル亜鉛電池の研究に従事しました。

核化学への転身とマンハッタン計画

1937年、スローティンはシカゴ大学の研究員となり、核化学の世界に足を踏み入れます。アメリカ合衆国中西部初のシンクロトロン建設にも参加しました。その後、エンリコ・フェルミによる世界初の原子炉シカゴ・パイル1号の立ち上げにも携わり、放射線生物学の分野でも成果を上げていました。

彼の卓越した才能はアメリカ合衆国政府の目に留まり、マンハッタン計画への参加を要請されます。オークリッジ国立研究所、そしてロスアラモス国立研究所で、プルトニウム製造や臨界実験に携わりました。ロスアラモスでは、後にノーベル賞を受賞するユージン・ウィグナーや、ロバート・バッチャーらと共に、極めて危険な臨界実験に挑みました。

臨界事故と「デーモン・コア」

スローティンは、核分裂物質の臨界量を測定する実験中に、1945年8月には研究助手であったハリー・ダリアンが臨界事故で被爆、死亡するという事故を経験しました。この事故は、スローティン自身にも大きな衝撃を与え、彼のマンハッタン計画への関与への疑問を募らせることになります。

しかし、彼の専門知識は依然として必要とされ、スローティンは臨界実験を継続することになります。そして、1946年5月21日、悲劇はスローティン自身を襲います。プルトニウムコアの臨界実験中に、誤って臨界状態を引き起こし、大量の放射線を浴びました。彼は迅速な対応で事故を収束させ、同僚の命を救いましたが、自身は致死量の放射線を浴びていました。

この実験で使用されたプルトニウムコアは、「デーモン・コア」と呼ばれ、その危険性が広く知られるようになりました。スローティンは、事故から9日後に急性放射線症候群で亡くなりました。この事故は、臨界実験における危険性の高さを改めて認識させ、安全対策の強化を促す契機となりました。

放射線量と事故後の影響

スローティンとダリアンが被曝した正確な放射線量は、当時の計測技術の限界から不明確です。しかし、近年における様々な研究から推定値が算出されています。事故後、ロスアラモス国立研究所では、臨界実験の方法は徹底的に見直され、遠隔操作による安全な実験方法が確立されました。

遺産とその後

スローティンの死は、マンハッタン計画の影の部分を浮き彫りにしました。彼の献身的な行動は、彼の死後も称賛され続けました。彼の名前を冠した記念基金が設立されたり、小惑星に彼の名が付けられたりしています。

彼の臨界事故は、映画や小説などのフィクション作品にも数多く取り上げられ、核兵器開発における危険性と倫理的な問題を問いかける題材となっています。スローティンの悲劇は、科学技術の発展と安全確保のバランスの重要性を私たちに改めて問いかける、歴史的な事件です。

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