ルキウス・ウェルス

ルキウス・ウェルス：享楽と栄光の生涯、そして謎の死

ルキウス・ケイオニウス・コンモドゥス・ウェルス、通称ルキウス・ウェルスは、ローマ帝国ネルウァ＝アントニヌス朝において、マルクス・アウレリウスと共に共同皇帝として君臨した人物です（在位161年～169年）。二人の皇帝は、ハドリアヌス帝の後継者問題から複雑に絡み合った運命を辿ることになります。

皇帝への道：恵まれた生い立ちと教育

ウェルスの父は、ハドリアヌス帝の親戚にあたるルキウス・アエリウス・カエサルでした。ハドリアヌス帝は当初、彼を後継者として考えていましたが、カエサルが138年に亡くなると、その遺児であった7歳のウェルスと、アントニヌス・ピウスの養子となるという条件付きで、アントニヌス・ピウスが新たな後継者に選ばれました。

こうして皇帝の養子となったウェルスは、恵まれた環境の中で教育を受けました。彼は優秀な学生として知られ、詩作や弁論を嗜んだと伝えられています。153年には政界にデビューし、154年には執政官に就任。これは当時としては異例な若さでの抜擢でした。

共同皇帝としての治世：軍事遠征と享楽的な生活

161年、アントニヌス・ピウスの死後、マルクス・アウレリウスが皇帝位を継承すると、ウェルスは共同皇帝となりました。二人の皇帝は同等の権限を持っていましたが、実務面ではマルクス・アウレリウスが主導権を握っていました。

ウェルスは、161年から166年にかけて、パルティアとの戦争に従軍しました。彼は恐れを知らない指揮官として、優れた将軍たちを率いてアルメニア王国を奪還し、パルティアの大都市クテシフォンとセレウキアを一時占領するなど、大きな戦果を挙げました。

興味深いのは、陣中でのウェルスの生活ぶりです。彼は俳優や音楽家たちを周囲に集め、常に娯楽に興じていたと言われています。しかし、これが指揮官としての彼の能力に影響することはなく、むしろ陽気な雰囲気を作ることで士気を高めたとも伝えられています。凱旋帰還したウェルスは、ローマで凱旋門を建てて祝われました。また、164年にはマルクス・アウレリウスの娘ルキッラと結婚しています。

ローマに戻った後も、ウェルスは享楽的な生活を続けました。夜通し続く宴会や戦車競走に熱中する様子は、マルクス・アウレリウスの苦言を買うこともしばしばありました。しかし、彼の享楽は、政治や行政に大きな影響を与えることはありませんでした。

ドナウ川での戦い、そして突然の死

168年春、ゲルマン系部族のアラマンニ族とマルコマンニ族がドナウ川を越えて侵攻してきました。ウェルスはこれを迎え撃つため出陣しますが、その最中、169年1月、食中毒と見られる症状により急死しました。

ウェルスの死因については、いくつかの異説があります。マルクス・アウレリウスによる毒殺説が代表的で、『ヒストリア・アウグスタ』やカッシウス・ディオの記録などにその記述が見られます。しかしながら、確証はなく、真実は闇の中です。

死後の評価：神格化と歴史的評価

死後、ウェルスはローマで神として祀られ、「ディウス・ウェルス（神君ウェルス）」の称号を与えられました。しかし、マルクス・アウレリウスが残した言葉からは、ウェルスへの複雑な感情がうかがえます。マルクス・アウレリウスは、ウェルスの死によって自らが国家建設を一から始められると述べ、パルティア遠征の功績も自己のものとしたと伝えられています。このことから、マルクス・アウレリウスによる毒殺説が、より信憑性を持つものとなっています。

ルキウス・ウェルスは、恵まれた生い立ちから華々しい経歴を歩み、ローマ帝国の歴史に名を刻みました。しかし、彼の享楽的な生活と謎の死は、後世の人々に様々な憶測を呼び起こし続け、いまだに多くの謎を残しています。彼の生涯は、栄光と陰影が入り混じった、複雑で魅力的な歴史の一ページと言えるでしょう。

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