ルドルフ・コーリッシュ

ルドルフ・コーリッシュ（Rudolf Kolisch, 1896年 7月20日 - 1978年 8月1日）は、オーストリアに生まれ、ヴァイオリニスト、弦楽四重奏団のリーダー、さらには教育者や音楽学者としても多大な功績を残した人物です。特に注目すべきは、彼がヴァイオリンを右肩に構え、左手で弓を扱うという極めて珍しい左利きの奏法を終生貫いた数少ないヴァイオリニストであったことです。

オーストリアのニーダー・エースターライヒ州クラムに生まれ、ウィーンで幼少期を過ごしました。父はユダヤ系の著名な内科医であり、ウィーン大学で教鞭をとる人物でした。第一次世界大戦後、コーリッシュはウィーン大学に籍を置きつつ、ウィーン音楽院でも研鑽を積みます。そこではヴァイオリン演奏をオタカール・シェフチークに、作曲をフランツ・シュレーカーに、そして指揮法をフェリックス・シャルクに学びました。当初、彼は指揮者としての道を志していたとされています。

転機となったのは、1919年頃から同郷のアルノルト・シェーンベルクに作曲を師事し始めたことです。この出会いをきっかけに、コーリッシュはすぐにシェーンベルクが主宰する私的演奏協会の活動に参加するようになります。そして、シェーンベルクの作品を世に紹介することを目的として、ウィーン弦楽四重奏団（後にコーリッシュ四重奏団と改称）を結成しました。この四重奏団は、数多くのリハーサルにおいてシェーンベルク自身の綿密な指導を受けました。同時に、シェーンベルクの教えに基づき、古典派の重要なレパートリーの演奏にも積極的に取り組みました。四重奏団はコーリッシュが率いる形で、シェーンベルク作品はもちろんのこと、アルバン・ベルクやアントン・ヴェーベルン、ベーラ・バルトークといった同時代の主要な作曲家たちからも新作を提供され、その初演や普及に貢献しました。ちなみに、コーリッシュの妹であるゲルトルート（1898年 – 1967年）は、1924年にシェーンベルクの後妻となっています。

第二次世界大戦が始まる前にニューヨークへ渡ったコーリッシュは、当初は自身の四重奏団を維持しようと試みますが、これは叶いませんでした。その後、彼はニュー・スクール大学の教員となり、「演奏（音楽の意味の実現）」と題された講座を担当します。また、指揮者のオットー・クレンペラーと協力して学内にアンサンブル（室内オーケストラ）を設立し、その最初の演奏会でバルトークの《弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽》、イーゴリ・ストラヴィンスキーの《兵士の物語》、シェーンベルクの《室内交響曲第1番》といった重要作品の米国初演を成功させました。この時期には、別の室内アンサンブルに参加し、作曲家自身が指揮したシェーンベルクの《月に憑かれたピエロ》の歴史的な録音にも加わっています。さらに、音楽学者として論文『ベートーヴェンの音楽における速度と性格（Tempo and Character in Beethoven's Music）』を執筆し、米国音楽学会ニューヨーク支部に提出しました。この論文は後に学術誌『ミュージカル・クォータリー（Musical Quarterly）』に掲載され、ベートーヴェンが楽譜に付記したオリジナルのメトロノーム記号の重要性を現代に再認識させた最初期の英語文献の一つとして知られています。

1944年、コーリッシュはウィスコンシン大学マディソン校に招かれ、正教授として迎えられるとともに、学内に常駐するプロ・アルテ弦楽四重奏団のリーダーに就任しました。これは、アメリカ国内では最初期の大学常駐アンサンブルであった可能性が指摘されています。1950年代には再びソリストとしてヨーロッパ各地を演奏旅行し、ダルムシュタット夏季現代音楽講習会では、旧友であるエドゥアルト・シュトイアーマンやテオドール・アドルノらと共に講師を務めました。1956年に一年間ダルムシュタットに滞在した期間を除き、1966年に定年を迎えるまでマディソンで教育活動を続けました。定年後は、指揮者のガンサー・シュラーに招かれてボストンのニューイングランド音楽院に移り、室内楽科の主任教授として亡くなるまでその地位にありました。晩年にあたる1974年の夏から1977年にかけては、ウィーン郊外のメートリンクで例年開催される「シェーンベルク講習会」でも室内楽演奏を指導しました。

私生活では、1930年代にピアニストのヨセファ・ロサンスカ（1904年 - 1986年）と結婚しましたが後に離婚し、1940年代初頭にヴィオラ奏者のローナ・フリードマン（1917年 - 2006年）と再婚しています。

ルドルフ・コーリッシュに関する重要な資料は、現在、ハーヴァード大学ヒュートン図書館の原稿部門に収蔵・保管されています。彼の生涯は、演奏家、教育者、研究者という多角的な視点から、20世紀音楽史、特に現代音楽の発展において重要な役割を果たしたことを示しています。

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