ルノー・マスター

ルノー・マスターは、フランスの自動車メーカーであるルノーが1980年から製造・販売している大型商用車です。車両総重量が2.8トンから3.5トンのクラスに位置づけられ、バンタイプやトラックタイプなど、幅広い用途に対応する多様なボディバリエーションが提供されています。ショート/ロングホイールベースのプラットフォームシャシ、標準/ハイルーフのバンボディ、独立したはしご型フレームを持つトラック仕様などが設定されています。欧州を中心に、ドイツのオペルやイギリスのボクスホールでは「モヴァノ」として、またルノートラックブランドでも「マスター」として販売されるなど、ルノーグループ内外で広く展開されるグローバルモデルです。日本への正規輸入は各世代を通じて行われていませんが、個人輸入やキャンピングカーのベースとして少数ながら導入された例があります。

初代（1981年 - 1997年）

初代マスターは、先行モデルであるエスタフェットの後継として、より小型のトラフィックとともに1980年9月に市場投入されました。駆動方式は前輪駆動の「トラクシオン」と後輪駆動の「プロピュルション」の二種類があり、エンジンは前輪車軸後方のセミキャブオーバー方式です。トラクシオンではエンジンの前にクラッチと変速機を置くユニークな縦置きレイアウトを採用しました。

外観は直線を基調とし、初期型に円形ドアハンドルが見られます。荷室や客室の側面ドアは一般的なスライドドアとは異なる外吊り式で、これにより部品点数を削減しました。跳ね上げ式テールゲートは開閉時に支点が移動することで、後方への張り出しを抑える機構を備えていました。

当初のエンジンはFiat-Sofim製2.5Lディーゼルのみでしたが、後に2.1Lや2.4Lディーゼル、少数ながらルノー製2.0L/2.2Lガソリンも追加されました。1994年のマイナーチェンジでは、エンジンが自然吸気2.5Lディーゼルとターボ付き2.8Lディーゼルに変更されています。

Bシリーズ / メッセンジャー

ルノートラックが1982年末に発売した「Bシリーズ」は、マスターのヘビーデューティー仕様として位置づけられました。B70からB120までが設定され、後輪駆動と後輪デュアルタイヤを備え、マスターとは異なる専用シャシにマスターのボディを架装したモデルでした。1990年にはイギリス市場でダッジ/ルノー・50シリーズの後継として導入されました。より大型モデルも追加され、1987年にはB90の四輪駆動モデルがパリ・ダカール・ラリーに参戦しています。このB90 4x4の民間仕様は1990年から1999年まで販売されました。1993年にはフロントグリルが変更され、「メッセンジャー」と改称されました。

2代目（1997年 - 2010年）

1997年に登場した2代目は、OEM供給先を拡大しました。オペル/ボクスホールには引き続きモヴァノとして、2001年からは提携先の日産自動車にもインタースターとして供給されました。2002年には大規模な意匠変更が実施され、ヘッドランプやフロントグリルが刷新され、外観が2代目トラフィックに近くなりました。エンジンには日産製ZD30DDTi型も追加されています。

3代目（2010年 - 現在）

2010年1月に発表され、4月に欧州で販売が始まった現行の3代目マスターは、FFとFRの駆動方式が用意され、ホイールベース長も3タイプ設定されています。エンジンは2.3L直列4気筒ターボディーゼルが主体で、出力別に3タイプがラインアップされました。日産からは「NV400」として展開されています。2018年10月からはルノーサムスンを通じて韓国市場にも導入されました（当初FF版のみ）。2019年には前面デザインの大幅改良が行われています。

近年の動向として、2022年10月には商用燃料電池車「マスターH2-TECH」の量産モデルがパリモーターショーでお披露目されました。これはルノーグループとプラグパワー社によるHYVIAが開発し、ルノーのバチイイ工場で生産予定です。

マスターは、その用途に応じた幅広い全高と全長の組み合わせを持つ多様なサイズが提供されています。

関連項目

オムニノーバ・マルチライダー
日産・インタースター
日産・NV400
ルノー・トラフィック
ルノーのギアボックス型式
ルノーのエンジン型式一覧

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