ルーシャス・ケアリー (第2代フォークランド子爵)

ルーシャス・ケアリー：激動の時代を生きた穏健派の貴族

第2代フォークランド子爵ルーシャス・ケアリー（1610年 - 1643年）は、17世紀イングランドの政治家であり、貴族でした。彼は、盟友のエドワード・ハイド（後のクラレンドン伯爵）と共に、清教徒革命（イングランド内戦）期における穏健派の代表として知られています。ケアリーは、法の支配と議会と国王の均衡を強く求め、当時の政治的混乱の中で、理想と現実の狭間で苦悩しました。

生い立ちと初期の活動

1610年、初代フォークランド子爵ヘンリー・ケアリーの長男として生まれたルーシャスは、ダブリン大学トリニティ・カレッジやケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジで学びました。その後、ネーデルラントでの戦闘に参加し、軍人としての経験も積んでいます。1633年に父の死により、フォークランド子爵の爵位を継承しました。

親政への批判と議会での活動

当時のイングランド国王チャールズ1世は、1629年以来議会を招集せず、親政を行っていました。この状況に対し、ケアリーは強い危機感を抱き、オックスフォードシャーの領地にジョン・セルデン、ギルバート・シェルドン、ウィリアム・チリングワース、エドワード・ハイド、トマス・ホッブズなど、進歩的な思想家や神学者を招き、交流を深めました。彼らとの議論を通じて、ケアリーは専制政治に反対する思想を確立していきました。

1640年、チャールズ1世は財政難から11年ぶりに議会（短期議会・長期議会）を招集します。ケアリーは、ワイト島ニューポート選挙区から選出されて庶民院議員となり、ハイドやセルデンらと共に、穏健進歩派として活動します。彼は、法の支配、議会と国王の均衡、親政以前の政治慣行の復活、プロテスタントに基づく国教会の確立などを要求しました。また、親政時代に行われた圧政を厳しく追及し、1641年2月から始まったストラフォード伯トマス・ウェントワースの弾劾では、中心的な役割を果たしました。

穏健派から王党派へ

ケアリーは、チャールズ1世の専制的な行動を批判しましたが、国王自身を排除しようとは考えていませんでした。彼は、国王側近の専制的な行為が問題の本質であり、彼らを取り除くことで国王と議会の協調が可能になると考えていました。そのため、国王の枢密顧問官や高官を議会の管理下に置くことを目的とした『議会の大諫奏』には、国王大権の侵害であるとして反対しました。しかし、大諫奏は1641年11月に可決され、議会は急進派と穏健派に分裂します。この結果、ケアリーら穏健派は、穏健王党派へと転向していきました。

1642年1月には、チャールズ1世が急進派の議員をクーデター的に逮捕しようとした事件が発生し、議会は急進派が支配するようになります。一方、国王はイングランド北部のヨークへ逃れ、王党派の拠点としました。ケアリーとハイドも、議会内で「国王に有害な助言を行っている陰謀家」と糾弾されるようになり、危険を感じてヨークの国王のもとに合流します。そこでケアリーは、国王秘書長官と枢密顧問官に任命されました。

内戦と最期

1642年6月、議会は国王に対して19か条提案を送りつけ、国王の権限を大きく制限しようとしました。これに対し、ケアリーとハイドは反論文を作成し、議会に送り返しました。彼らは、イングランドの政体は君主制、貴族制、民主制の三つが混合されたものであり、それぞれの長所を活かしつつ均衡を保つべきであると主張しました。そして、議会の要求は、この均衡を破壊するものであると批判しました。

しかし、王党派と議会派の間で内戦（第一次イングランド内戦）が勃発すると、ケアリーは国王軍の将軍として戦うことになります。1642年10月のエッジヒルの戦いや、1643年8月から9月のグロスター包囲戦に参加しました。しかし、ケアリーは、自らの理想とは異なる立場で戦うことに深く悩み、苦しんでいました。1643年2月には、議会軍から国王が軍の統帥権を放棄すれば和平に応じるという提案がありましたが、チャールズ1世は強硬派にそそのかされ、これに応じようとしませんでした。このことに絶望したケアリーは、1643年 9月20日の第一次ニューベリーの戦いで、自殺同然の突撃を敢行し、戦死しました。

栄典と家族

ケアリーは、1633年に父の死により、第2代フォークランド子爵と第2代ケアリー卿の爵位を継承しました。1630年以前にレティシア・モリソンと結婚し、2人の息子を儲けました。長男のルーシャス・ヘンリー・ケアリーは第3代フォークランド子爵を、次男のヘンリー・ケアリーは第4代フォークランド子爵を継承しました。

ルーシャス・ケアリーは、激動の時代において、常に理想と現実の間で苦悩し続けた人物でした。彼の行動と思想は、17世紀イングランドの政治史を理解する上で、重要な視点を提供してくれます。

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