レジデンツ

ザ・レジデンツ：謎に包まれた前衛音楽集団

ザ・レジデンツ（The Residents）は、アメリカ合衆国南部出身の、前衛音楽、実験音楽、そしてビジュアル・アーツの分野で活動するグループです。そのエキセントリックな音楽性は、一部の先鋭的な音楽ファンから熱狂的な支持を受けています。1970年代前半に活動を開始し、1974年にデビュー・アルバムを発表しました。

アルバムのクレジットや公式サイトの情報によると、過去にはスネークフィンガー、フレッド・フリス（ヘンリー・カウ）、タキシードムーン、チリ・ウィリ・アンド・ザ・レッド・ホット・ペッパーズ、レナルド・アンド・ザ・ローフ、ヘリオス・クリード、Yelloなど、ジャンルを超えた様々なアーティストと共演しています。

メンバー構成は明らかにされていませんが、ハーディ・フォックスの死去によって、彼がグループの共同創設者の一人であったことが判明しました。日本国内においては、ゴンチチのゴンザレス三上と音楽評論家の湯浅学が、NHK-FMの番組内でレジデンツのファンであることを公言しています。

概要

50年以上に及ぶ活動期間中、レジデンツは常にその生活と音楽を謎に包み込んできました。4人または5人いるとされるメンバーは、メディアのインタビューを一切拒否し、本名も明かしていません。デビュー時には、カセットテープをフランク・ザッパやリチャード・ニクソンを含む約300人に送りつけたという逸話も残っています。

ライブや写真撮影では常に奇抜な衣装を身につけており、特にタキシードとトップハット、そして巨大な目玉のマスクというスタイルが広く知られています。レジデンツに関するインタビューや広報活動は、彼らが雇用しているマネージメント・チーム「クリプティック・コーポレーション」によって行われています。このチームは、ホーマー・フリン、ハーディー・フォックス、ジェイ・クレム、ジョン・ケネディによって構成されています。1976年には、彼らこそがレジデンツのメンバーではないかという噂が流れましたが、クリプティック・コーポレーションはこれを否定しています。彼らの正体については、現在も様々な憶測が飛び交っています。

略歴

キャリア：1970年代

レジデンツはルイジアナ州シュリーブポートの出身で、1960年代に地元の高校でメンバーが出会いました。1966年、彼らはカリフォルニア州サンフランシスコを目指して西へ向かいましたが、サンマテオで車が故障したため、そこに留まることになりました。

生活の糧を得るため、彼らはテープマシンや写真など、「芸術」に関連する様々な実験を始めました。彼らの活動は口コミで広がり、1969年にはイギリス人ギタリストのフィリップ・リスマン（スネークフィンガー）と、リスマンがババリアで出会ったN・セナダがレジデンツのもとに合流し、行動を共にすることになりました。

ヨーロッパ出身の2人はレジデンツに大きな影響を与え、リスマンは蛇のように指を動かすギター演奏から、「スネークフィンガー」と呼ばれるようになりました。

当初、彼らは音楽的な素養に乏しかったものの、粗末な録音機材や楽器を購入し、テープ制作に没頭しました。初期のパフォーマンスの一つは、カリフォルニア州バークレーのロングブランチで行われました。

1970年までに、『医者のための錆び付いたコートハンガー』と『剥製の引き金のバラード』という2つのテープが完成しました。1971年には3番目のテープをワーナー・ブラザースのハル・ハルバースタットに送りつけましたが、キャプテン・ビーフハートとの仕事の経験がある彼でさえも、『Warner Brothers album』には興味を示さず、ワーナーも拒否しました。グループが返却先住所に宛名を記載していなかったため、拒絶の通知は「当該住所の住人（レジデンツ）」宛に送られてきました。これがグループ名の由来となりました。

レジデンツ名義で行われた最初のパフォーマンスは、1971年にサンフランシスコのボードハウス・クラブで行われました。同年、彼らは『ベイビー・セックス』というタイトルのテープを作成しました。そのジャケットには、デンマークのポルノ雑誌から流用した画像が使用されました。

1972年、彼らはサンフランシスコに移り、「ラルフ・レコード (Ralph Records)」を設立します。この頃、レジデンツはN・セナダの「無名の理論」を取り入れました。これは、外部からの期待や影響を排除することによってのみ、アーティストは純粋な芸術を生み出すことができるという考え方です。

同年末、2枚組シングル『サンタドッグ』がクリスマスシーズンにリリースされました。タイトルトラック（当初は「ファイア（Fire)」として出版された）は、彼らの代表曲の一つとなりました。EPのほとんどのコピーは、フランク・ザッパやリチャード・ニクソンなど、親しい友人、家族、有名人に送られました。EPの楽曲は、主に短いパーカッシブ作品、シュルレアリスムの歌詞とチャント、テープ・ループ、そして当時は一般的ではなかったサンプリングで構成されています。すべてのトラックは、異なる架空のアーティストとソングライターにクレジットされています。

1974年にリリースされた最初のアルバム『ミート・ザ・レジデンツ』は、当時のセールスが40枚程度にとどまり、話題になることはありませんでした。発売当初のジャケットは、ザ・ビートルズのアルバム『ミート・ザ・ビートルズ』のパロディで、ビートルズの写真に落書きがされていました。EMIとキャピトルからの抗議を受け、訴訟を恐れた彼らはジャケットを変更し、再発売しました。新しいジャケットは、ビートルズのテーマを維持したまま、ビートルズのスーツを着た海の生物が描かれていましたが、1988年の再販時にはオリジナルのジャケットに戻され、以降2022年現在も使用されています。

同時期に、映画『ヴィレネス・ファット』の制作が開始されました。14時間以上の撮影が行われた後、グループは何の理由もなく制作を放棄し、作品は未完となりました。その後、1984年に再編集され、『Whatever Happened to Vileness Fats?』としてVHSで公開されました。

1976年のアルバム『ザ・サード・ライヒンロール』は、ナチスの第三帝国（サード・ライヒ）からタイトルが取られました。音楽業界の重鎮たちの姿をナチスのように加工した写真やイラストが、アルバムのジャケットを飾りました。レコードの各面にはそれぞれ1曲ずつ（約17分30秒）が収録され、古典的なロックンロール・ソングを切り刻んで再編集し、ボーカル、パーカッション、テープ・ノイズをオーバーダブで散りばめた内容となっています。

1976年のアルバム『フィンガー・プリンス』は、世界初の3面アルバム（2枚のうち1枚が片面がブランク）としてリリースされる予定でしたが、非現実的であるとしてラルフ・レコードが拒否したため、最終的に1枚でリリースされることになりました。本作に収録予定だった楽曲の一部は、ファンクラブ限定のEP盤『ベビー・フィンガーズ』に収録され、1988年にCD化された際、ボーナストラックとして収録されました。

1977年のEP盤『ダック・スタブ』は、レジデンツがブレイクを果たすきっかけとなりました。しかし、EP盤の音質が劣っていたため、サウンドを改善するためにアルバムとして再リリースすることにしました。彼らは『バスター&グレン』と呼ばれる同様の未発表EPを取り上げ、それを新しいアルバムのB面に収録し、翌年11月にリリースしました。後にアルバムは単に『ダック・スタブ』と改名されました。

さらに彼らは、「無名の理論」を論理的に発展させ、発表しないことを念頭に置いたアルバム『ノット・アヴェイラブル』を1974年に録音しました。彼らはこのアルバムをお蔵入りにし、誰もがその存在を忘れてしまった時点で発表しようとしました。しかし、彼らがアルバムのことを忘れかけていた1978年に、レコード会社は契約上の義務から、このアルバムを一般に発表してしまいました。

1980年代以降のキャリア

『エスキモー』（1980年）は、音楽的でない音やパーカッション、言葉にならない声などから構成された楽曲が収録されたアルバムです。これらの楽曲は、（伝統的な意味での）歌というよりも、物語の台詞のない実況中継のようでした。このアルバムはグラミー賞にノミネートされかけました。後に彼らはアルバムの「曲」をディスコ調にアレンジし、『ディスコモー』というタイトルのEPとして発表しました。『エスキモー』は、サラウンド・サウンド付きオーディオDVDとして2003年に再発売されました。

従来のポップソングが、3分ほどの間に歌メロとサビが3回ずつ繰り返される形式を持っているのに対し、『コマーシャル・アルバム』（1980年）には、歌メロとサビが約1分間に1回ずつ演奏される楽曲が40曲収録されています。これらの楽曲はCMソングのような雰囲気を持っていますが、既存の商品やサービスを宣伝するものではありません。レジデンツはこのアルバムを宣伝するために、サンフランシスコで最も人気のあるラジオ局のスポットCMを1分ずつ40スポット購入しました。これにより、アルバムの各曲が3日間にわたり、このラジオ局から流されることになりました。ビルボード誌はこのことを記事に取り上げ、果たしてこれは芸術行為なのか、それとも単なる宣伝だろうかと疑問を呈しました。

レジデンツは、ミュージック・ビデオの先駆者としても知られています。MTVが放送を開始したばかりの頃は、放送できるビデオがまだ少なかったため、彼らのビデオが頻繁に放送されていました。彼らの初期のビデオは、ニューヨーク近代美術館の永久コレクションにも含まれています。これらのビデオは、2001年に発表された『イッキー・フリックス』というDVDに収録されており、このDVDにはすべての曲の再録バージョンを聴ける特典も付いています。

さらに、アルバム『マーク・オブ・ザ・モール』およびその続編が発表され、有名な手品師のペン・ジレットが毎晩ナレーションを行う初の公式ツアーも行われました。「モール3部作」は、いまだ最後のアルバムが発表されていません。

これに続いて、彼らは「アメリカの作曲家シリーズ」を発表しました。このシリーズでは、ジョージ・ガーシュウィンとジェームズ・ブラウンなどといった組み合わせで、レコードの片面それぞれにアメリカの有名な作曲家のカバー曲が収録されました。しかし、法的な問題が発生する可能性を考慮し、このシリーズは最初の発表以来、無期限延期されています。

1980年代中期には、スネークフィンガーと共にモールショー以来となる公式ツアー『13周年ショー』が開催され、初の日本公演も行われました。ツアー開始直後、メンバーの一人の目玉マスクが盗まれてしまったため、巨大なドクロのマスクが新たに登場することになりました。盗まれたマスクは、犯人の居場所を突き止めた熱狂的なファンによって盗み返され、1985年に戻ってきました。しかし、このマスクは「穢れた」ものとみなされ、魂のこもっていない抜け殻として、その後は使用されていません。2015年にも再び同様の事件が発生しましたが、マスクは現在も見つかっていません。

ツアー終了後の1987年、スネークフィンガーがヨーロッパツアー中に心臓発作で急逝しました。彼の葬儀はイギリスで行われたため、レジデンツと他の多くの共通の友人は参列することができませんでした。そのため、8月24日にサンフランシスコで「スネーキー・ウェイク」として独自のパフォーマンスと集会を開催しました。この模様は、後にファンクラブCDでリリースされました。

コンセプトアルバム『ゴッド・イン・スリー・パーソンズ』は、結合双生児と友達になる、任意に「ミスターX」という名前の男性について描かれています。曲はすべて、トーキングブルースに似たリズミカルな話し言葉の方法で歌われています。スネークフィンガーの参加も予定されていましたが、録音直前に急逝したため、実現しませんでした。アルバムのほとんどの楽曲からナレーションを抜いたサウンドトラックアルバムも発売されました。

エルヴィス・プレスリーへの愛をテーマにした1989年のアルバム『KING & EYE』がリリースされ、3つの組曲に分けて演奏するパフォーマンス「CUBE-E - THE HISTORY OF AMERICAN MUSIC IN 3 E-Z PIECES」と題したライブも行われました。

レジデンツは、マルチメディアCDをいち早く発表したことでも知られています。CD-ROMの『フリークショウ』は、『エンターテインメント・ウィークリー』誌に「最良のエンターテイメント・ソフトウェア」として選ばれました。さらに彼らは、『Census Taker』や『ピー・ウィーのプレイハウス』、ディスカバリー・チャンネルの自然番組『Hunters』といった映画やテレビ番組のサウンドトラックに楽曲を提供しているほか、MTVのCMの音楽も手がけています。

現在でもレジデンツは新しい作品を発表し続けており、絶版になったアルバムの特別版の再発（彼らは700以上の楽曲を手がけてきました）や、DVDの発表にも力を入れています。彼らはツアーも行いますが、頻度は非常に少ないです。

1990年代半ばからは、モリー・ハーヴィーという歌手が、頻繁に彼らとアルバムの録音およびライブ活動を共にするようになりました。しかし、レジデンツは自らを完全に匿名な存在だと考えているため、彼女はバンドのメンバーというよりも、スネークフィンガーのような一時的（あるいは継続的）なゲスト・スターとされています。

また最近では、クリプティック・コーポレーションがeBayにおいて、過去のライブなどで使用された様々な備品や小道具を販売しています。

2012年末には、デビュー40周年を記念して、100を超えるレジデンツのカタログをすべて詰め込んだ10万ドル（約820万円）の限定ボックスセット「Ultimate Box Set」をリリースしました。LP40枚やCD50枚に加え、シングル、EP、DVD、CD-ROMなど、目玉マスクを含むすべてのアイテムは冷蔵庫に収納されています。10セット限定で販売されましたが、売れたのは2セットのみでした。

2017年にCherry Red Recordsに移籍し、同年3月にはBLUE NOTE TOKYOで32年ぶりの来日公演が行われました。

レジデンツのメンバーであるチャールズ・ボバック (Charles Bobuck) は、2015年に体調不良のためライブツアーから引退し、制作に専念することになりましたが、翌年秋に脱退し、ソロ活動を開始しました。同時期に、ハーディ・フォックスもクリプティック・コーポレーションを退社しました。2017年10月1日に、ハーディ・フォックスは自身のウェブサイトで「ハーディ・フォックスの有用な仮名」であることを明かしました。フォックスは、2018年10月30日に脳腫瘍により73歳で死去しました。

(ディスコグラフィーは省略)

(関連項目は省略)

(脚注は省略)

(外部リンクは省略)

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