レナート・ブルゾン

レナート・ブルゾン（Renato Bruson）は、1936年1月13日にイタリアのグランツェで生まれた、20世紀後半を代表する偉大なバリトン歌手です。彼の歌声は深く響き渡りながらも高貴な品格を湛え、その歌唱スタイルは一切の崩れがない折り目正しいものでした。

エットーレ・バスティアニーニに続く世代において、彼はピエロ・カプッチッリと共に、イタリア・オペラ、特にジュゼッペ・ヴェルディの作品における最も正統的なバリトンとして高く評価されています。彼の卓越した表現力と声楽技術は、数々のオペラ作品で存分に発揮されました。

少年時代から音楽に親しみ、教会の聖歌隊で歌っていたレナート・ブルゾンは、成長してからは奨学金を得てフェラーラのポリーニ音楽院で専門的な研鑽を積みました。そして、1961年にスポレートで開催されたオペラフェスティバルで、ヴェルディの傑作『イル・トロヴァトーレ』のルーナ伯爵役を歌い、オペラ歌手としての輝かしい第一歩を踏み出しました。

デビュー後、彼は瞬く間にイタリア国内の主要な歌劇場で引っ張りだこになります。ローマ、ボローニャ、ナポリ、ヴェネツィアなど、各地の舞台で着実に経験を積み、その実力と存在感を不動のものとしていきました。

国際的な活躍も目覚ましく、世界の主要な歌劇場への出演も始まりました。ニューヨークのメトロポリタン歌劇場には、1969年にドニゼッティの『ランメルモールのルチア』で初めて登場しました。一方、ミラノ・スカラ座へのデビューはやや遅れ、1972年のドニゼッティ作品『シャモニーのリンダ』でした。

日本との縁も深く、早くも1967年には第5次NHKイタリア歌劇団の一員として初来日を果たしています。この時の公演では、『ランメルモールのルチア』でエンリーコ役を、同じく名バリトンのマリオ・ザナージと共に務めています。

その後、1988年のミラノ・スカラ座日本公演での『ナブッコ』での再来日以降は、頻繁に日本を訪れるようになり、その圧倒的な歌唱と円熟した表現力で日本のオペラファンを魅了し続けています。

レナート・ブルゾンが得意とした役柄は多岐にわたりますが、特にヴェルディ作品においては、リゴレット（『リゴレット』）、シモン・ボッカネグラ（『シモン・ボッカネグラ』）、ナブッコ（『ナブッコ』）、イヤーゴ（『オテロ』）、ジェルモン（『椿姫』）といった、人間心理を深く描いた難役で絶賛を浴びました。プッチーニの『トスカ』における悪役スカルピア男爵も彼の当たり役の一つです。これらの役柄において、彼のヴェルディ・バリトンとしての資質や、役柄への深い解釈が存分に発揮されました。彼のパフォーマンスは、役の持つ悲劇性や苦悩、あるいは邪悪さを、表面的な効果に頼ることなく、声と演技によって品格をもって描き出すことに特徴がありました。

長年にわたり第一線で活躍し続けたレナート・ブルゾンは、今なお多くのファンに愛され、その偉大な功績はオペラ史に深く刻まれています。

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