ロフォモナス
ロフォモナス (Lophomonas)
ロフォモナスは、パラバサリアと呼ばれる原生生物群に属する単細胞生物です。特にゴキブリなど昆虫の消化管内に共生していることで知られていますが、近年ではヒトの呼吸器系において感染症を引き起こす病原体としても認識されるようになり、医学的な関心も高まっています。
形態的特徴
ロフォモナスの細胞は、一般的に20マイクロメートルから60マイクロメートルの長さと、12マイクロメートルから20マイクロメートルの幅を持つ、やや大型の原生生物です。その形状は卵形から梨形をしており、最も目を引く特徴は細胞の「頂端」と呼ばれる一端に、まるでブラシや房のように密集して生えている多数の鞭毛の束です。この独特な形態のため、顕微鏡で観察した際に、ヒトの気管支上皮細胞などと誤認されることもあります。しかし、ロフォモナスの細胞質には、摂食したと思われる多数の貪食顆粒が観察されることや、細胞核が鞭毛の基部のごく近くに位置している点で、ヒトの組織細胞とは明確に区別できます。
生態と生活環
ロフォモナスの主要な生息場所は、ゴキブリをはじめとする様々な昆虫の後腸です。ここでロフォモナスは宿主の消化管内で生活し、おそらく宿主が摂取した食物などを利用して増殖していると考えられています。ロフォモナスは、耐久性の高い「シスト」と呼ばれる形態を形成する能力を持っています。このシストは外部環境に対する抵抗性が強く、感染した宿主の糞便と一緒に体外へ排出された後も生存できます。これにより、他の昆虫や、場合によってはヒトなどの新たな宿主に経口または吸入経路で感染を広げることが可能になると考えられています。
ロフォモナス症とその対策
ロフォモナスがヒトに感染した場合、「ロフォモナス症」として症状が現れることがあります。この疾患は主に副鼻腔や気管支といった呼吸器系で発生し、慢性的な炎症や呼吸器症状を引き起こすことが報告されています。ヒトでの感染例は、1993年に中国で初めて学術報告されて以来、イラン、トルコ、インド、ペルー、パナマ、メキシコなど、世界中の様々な地域から報告されるようになりました。特筆すべき点は、感染者が臓器移植後などで免疫が抑制されている状態の患者だけでなく、特に基礎疾患を持たない比較的健康な患者からも多数報告されていることです。このことから、ロフォモナスは宿主の免疫状態に関わらず感染を引き起こす可能性があると考えられています。ロフォモナス症の治療には、メトロニダゾールという抗寄生虫薬が有効であることが多くの症例で示されています。
分類学上の変遷
ロフォモナスの分類学上の位置づけは、研究手法の進化とともに大きく変化してきた複雑な歴史を持っています。古典的な分類体系では、その特徴的な形態や細胞分裂様式に基づいて、鞭毛虫亜門に属する動物性鞭毛虫綱の超鞭毛虫目の中に位置づけられ、特にJoeniaなどの他の超鞭毛虫とは異なるロフォモナス亜目という独立したグループとして扱われていました。その後、電子顕微鏡による微細構造の詳細な観察が可能になると、パラバサリア門の超鞭毛虫綱ロフォモナス目に所属が変更されました。しかし、20世紀末頃に、超鞭毛虫全体が単一の系統群（単系統）ではないことが分子系統解析などによって明らかになると、ロフォモナスの近縁関係が見直され、一部のトリコモナス類に近いものとしてクリスタモナス目に再分類されました。さらに、ロフォモナス自身の遺伝子配列などの分子情報が詳細に解析されるようになると、それまでの形態や一部の分子情報に基づく知見とは大きく異なり、トリコニンファ目に近縁であることが示唆されました。現在の分類体系では、再びロフォモナス目に位置づけられていますが、この現在のロフォモナス目は、過去に用いられていた同じ名称のロフォモナス目とは、含まれる分類群の構成が大きく異なっています。
認識されている種
現在、ロフォモナス属の中では、主に以下の2つの種が学術的に認識されています。
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。