ロールス・ロイス・カマルグ

ロールス・ロイス カマルグ：ラグジュアリークーペの金字塔

1975年、ロールス・ロイスは、それまでのラインナップをさらに上回る、究極のパーソナルクーペとしてカマルグを発表しました。このモデルは、同社が戦後初めて外部デザイナーにデザインを委託した、画期的な一台です。デザインを手掛けたのは、イタリアのカロッツェリア・ピニンファリーナ所属のパオロ・マルティン。南フランスの地名に因んだその名は、優雅さと力強さを併せ持つ車体を象徴しています。

デザインと開発

カマルグのルーツは、1968年のロンドンショーに出展された、ピニンファリーナが手掛けたベントレーT1クーペに遡ります。ロールス・ロイスは、当時開発中だった社内呼称「デルタ」とされるモデルのデザインをピニンファリーナに依頼。その際に、ベントレーT1クーペのデザインが影響を与えたとされています。しかしながら、最終的なカマルグのスタイリングは、オリジナルとは大きく異なり、「威厳に満ち、時代を超越する」というロールス・ロイスの要望を反映した、独自のデザインへと進化を遂げました。

車体ベースは、シルヴァーシャドウとコーニッシュが用いられましたが、コーニッシュとは異なり、オープンモデルは存在せず、2ドアクーペのみの設定でした。ただし、少数ながら外部コーチビルダーによってオープンモデルへ改造された例も存在します。

ボディの架装は、ロールス・ロイス伝統のコーチビルダーであるミュリナー・パークウォードが担当。コーニッシュを凌駕する、最高の技術と品質が注ぎ込まれました。また、ロールス・ロイスとして初めてメートル法で設計されたモデルでもあります。特徴的なパルテノン神殿を模したフロントグリルは、4度前方に傾斜しているのもポイントです。

生産と販売

1975年から1986年にかけて、カマルグは合計529台が生産されました。加えて、ベントレーブランドで1台が生産されたという記録も残ります。さらに、1987年にはアメリカでのロールス・ロイス80周年記念モデルとして「カマルグLTD」が12台限定で販売されています。

販売価格は、当時のロールス・ロイスラインナップ中、ファントムVIを除けば最も高価なモデルであり、デビュー当時は世界で最も高価な市販車の一つとされていました。「ショールームで買える世界一高額な車」という呼び名もつきました。

イギリスでの価格は税込み£29,250、アメリカでは$147,000（2008年の価値で$588,000相当）、そして日本でも4,800万円という高額な価格で販売されました。

性能と装備

カマルグのパワートレインは、6.75リッターV8OHVエンジンと、ゼネラルモーターズ製3速自動変速機（TH400）の組み合わせです。シルヴァーシャドウやコーニッシュと共通の機構をベースとしながらも、4バレルキャブレターや無接点式点火装置の採用により、出力は8～10％向上していました。正確な出力は公表されていませんでしたが、余裕のある走りを実現していました。

シャシーはフロアユニットを流用しつつも、前後トレッドの拡大により、全幅は1920mmに広げられています。サスペンションは四輪独立懸架で、車高調整機能も備えていました。

1977年2月には、シルヴァーシャドウIIのパワーステアリングシステムが採用され、高速安定性が向上。1979年には、シルヴァースピリットのリアサスペンションに変更されました。1984年からはボッシュKジェトロニックの燃料噴射システムと、圧縮比8.0の高性能エンジンを搭載しています。

内装と装備は、まさに最高級のクオリティを誇っていました。AM/FMラジオとカートリッジプレーヤーを備えたボッシュ製カーステレオが標準装備され、パワーウィンドウ（前席）、8方向調整可能なパワーシート、そして後席乗降を容易にするパワー式バックレストリリース機構なども採用されていました。フルオートで左右独立の温度調整が可能な、2レベル式のカーエアコンシステムも大きな特徴です。このエアコンシステムは、その後コーニッシュやシルヴァーシャドウII、ベントレーT2などにも採用されています。

タイヤサイズは235/70HR15。日本仕様車は、触媒方式で当時の排出ガス規制に適合していました。

まとめ

カマルグは、ロールス・ロイスの技術力と伝統、そしてピニンファリーナの芸術性を融合させた、まさに究極のラグジュアリークーペです。その高い価格と希少性から、現在でもコレクターズアイテムとして高い価値を誇っています。洗練されたデザインと豪華な装備、そして圧倒的な存在感は、今もなお多くの自動車愛好家を魅了し続けています。

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