ローレンス・ハルプリン

ローレンス・ハルプリン

ローレンス・ハルプリン（Lawrence Halprin、1916年7月1日 - 2009年10月25日）は、20世紀後半のアメリカ合衆国を代表するランドスケープ・アーキテクトであり、環境デザイナーとして知られます。

彼は、ダンサーであり、サンフランシスコ・ダンサーズ・ワークショップを主宰した妻アンナ・ハルプリンとの協働を通じて、公共空間のデザインに新たな視点をもたらしました。特に、空間とその利用者との間の相互作用や体験に焦点を当てた彼のデザインは特徴的です。噴水広場、都市公園、歩行者空間など、人々が集まり交流する場所の設計において、アメニティ（快適さ）を重視し、利用者の視点を取り入れることを追求しました。

また、1960年代以降は、デザインプロセスにワークショップ形式を導入するなど、市民参加の手法を実践した先駆者としても知られています。住民の経験や意見を設計に反映させる市民協働のまちづくりは、現代のランドスケープデザインや都市計画においても重要なアプローチとなっていますが、ハルプリンはその基礎を築いた人物の一人と言えるでしょう。

生涯とキャリア

ハルプリンはニューヨーク州ブルックリンで、ユダヤ系移民を祖父に持つ家庭に生まれました。父親は科学機器の輸出業を営み、母親は熱心なシオニスト活動家でした。

高校卒業から大学入学までの数年間、彼はイスラエルのキブツ（集団農場）で過ごし、この経験が後の自然やコミュニティへの関心に影響を与えたとされます。コーネル大学で植物学を専攻し、1939年に卒業。さらにウィスコンシン大学大学院で園芸学を学び、1941年に修士号を取得しました。この頃、生涯の伴侶となるアンナと出会っています。

その後、奨学金を得て1942年にハーバード大学デザイン大学院に進学。ここでは、建築家のヴァルター・グロピウスや造園家のクリストファー・タナードに学びました。また、東海岸の環境計画に関わる活動家たちの交流誌の編集に協力するなど、アカデミックな枠を超えた活動も行っていました。

第二次世界大戦中の1943年には海軍に召集され、太平洋戦線、特に沖縄戦に出陣しました。乗っていた駆逐艦が特攻隊の攻撃により沈没するも、奇跡的に生還するという壮絶な経験をしています。

1944年にハーバード大学で修士課程を修了し、1945年に海軍を除隊。著名な建築家ウィリアム・ウースターの紹介で、当時西海岸を代表するランドスケープ・アーキテクトであったトーマス・チャーチの事務所に入所します。約4年間をチャーチのもとで経験を積み、ダーネル邸庭園などの設計に関わった後、独立事務所を設立しました。

彼の活動は国内外で高く評価され、生涯で50もの賞を受賞しました。日本でも1982年にスケッチ集が出版されるなど知られています。また、日本のランドスケープ・アーキテクトである上山良子氏が彼の事務所に在籍していた時期もあります。著書には、都市環境におけるデザイン哲学やワークショップ手法について記したものがあります。

2009年10月25日、老衰のため93歳で永眠しました。

デザイン哲学と主要プロジェクト

ハルプリンのデザインは、自然の形態、特に水の流れや岩の形状、そして人間の身体的な動きや体験に深く根ざしています。彼の代表作であるポートランドの一連の都市空間（ペディグローブ・パーク、ラブジョイ・ファウンテン・プラザなど）は、滝や急流といった自然のダイナミズムをコンクリートや石材で表現し、利用者がその中を歩き、触れ、体験できる彫刻的な広場として高く評価されています。これらの空間は、従来の静的な公園とは異なり、遊び場や劇場のような活動を誘発する場としてデザインされました。

サンフランシスコのギラデリースクエアやレヴィ＝ストローズ・プラザ、ニューヨークのマンハッタン・スクウェア・パークなど、歴史的な建造物の再開発や都市の中心部における公共空間の創出においても、利用者の快適性や活動の多様性を重視した設計を行いました。

ワシントンD.C.にあるフランクリン・デラーノ・ルーズヴェルト・メモリアル・パークは、彼の晩年の重要なプロジェクトの一つです。広大な敷地にルーズヴェルト大統領の生涯と功績を象徴する部屋を配し、水景、彫刻、植栽を組み合わせることで、静思と感動を呼び起こす空間を作り出しました。

また、カリフォルニア州北部の海岸沿いに開発されたシーランチ・コンドミニアムでは、自然景観を最大限に保全し、建築と環境が調和するためのマスタープランやガイドライン策定に深く関わりました。これは、エコロジカルな視点を取り入れた開発の初期の成功例とされています。

これらのプロジェクトを通じて、ハルプリンはランドスケープ・アーキテクチャーの領域を広げ、都市計画、建築、そして芸術と人間の活動を結びつける総合的なデザインアプローチを提示しました。彼の残した遺産は、現代の公共空間デザインや市民参加型まちづくりの分野に大きな影響を与え続けています。

主な代表作

ブエナ・ビスタ・スクエアガーデン（サンフランシスコ）
ポートランドの一連の都市空間（ペディグローブ・パーク、ラブジョイ・ファウンテン・プラザなど）（1961年～1968年）
ギラデリースクエア（サンフランシスコ）（1962年～1965年）
シーランチ・コンドミニアム（カリフォルニア州北部）（1965年～）
シアトル・フリーウェイ・パーク・カスケード（1970年～1976年）
エンバルカデロ･プラザ（サンフランシスコ）（1971年）
フランクリン・デラーノ・ルーズヴェルト・メモリアル・パーク（ワシントンD.C.）（1974年～）
マンハッタン・スクウェア・パーク（ニューヨーク）（1975年）
レヴィ＝ストローズ・プラザ（サンフランシスコ）（1980年）
ウォルター・アンド・エリーゼ・ハス・プロムナード（エルサレム）（1984年～1985年）
レターマン・デジタル・アーツセンター（サンフランシスコ）
スターン・グローブ円形劇場改修（サンフランシスコ）（2005年）
ヨセミテ滝・ヨセミテ国立公園観光開発計画（2005年）

（このリストは全てを網羅するものではありません。）

参考文献

ローレンス・ハルプリン、ジム・バーンズ 著『集団による創造性の開発―テイキング・パート』（牧野出版、1989年）
* 『プロセス・アーキテクチュア特集/アメリカの環境デザイナー ローレンス・ハルプリン』（1978年）

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