ワピチ

ワピチ：北米と東アジアの大型シカ

ワピチ（学名: Cervus canadensis）は、ヘラジカに次いで世界で2番目に大型のシカです。北アメリカでは「エルク」と呼ばれ親しまれていますが、ヨーロッパではエルクはヘラジカを指すため、注意が必要です。アメリカインディアンのショーニー族の言葉で「白い尻」を意味する「ワピティ」という呼び名も持っています。

本稿では、北アメリカに生息する亜種を中心に、ワピチの生態、分類、人間との関わりについて詳しく解説します。

分布と概要

ワピチはアメリカ合衆国、カナダ、中国、北朝鮮、カザフスタン、キルギス、ブータン、モンゴル、ロシアなどに広く分布しています。かつてはメキシコにも生息していましたが、現在は絶滅しています。イタリアには人為的に移入されています。

雄は雌より大きく、大型の雄は肩高1.7メートル、全長3メートル、体重600キログラムに達することもあります。この巨体は、ヒグマなどの捕食者に対する防御手段にもなります。健康な成熟した雄は、ヒグマに襲われることはほとんどなく、逆にヒグマを殺してしまうこともあるとされています。東北アジアでは、ワピチは最大級の陸上動物の一つです。

雄は毎年春に伸び始め、冬に抜け落ちる大きな角を持ちます。角の長さは180センチメートルに達することもあります。繁殖期には、雄1頭と複数の雌が群れを形成します。

ワピチは草食動物で、草や木の葉、樹皮などを食べます。個体数が増えすぎると、地域の植生を破壊するなど、環境問題を引き起こす可能性があります。ニュージーランドやアルゼンチンなどでは外来種として問題視されている地域もあります。

自然状態での寿命は約15年ですが、平均寿命は10～13年程度です。飼育下では20年生きることもあります。天敵としては、北アメリカではオオカミ、ピューマ、ヒグマなどが挙げられますが、特に成熟した雄は強力なため、ヒグマも容易には襲いません。アジアではオオカミ、ヒグマ、トラ、ヒョウなどが天敵となります。

形態と生理

ワピチは、ウシ目（偶[[蹄目]]）反芻亜目に属し、蹄が2つに割れ、反芻をします。シカ科の特徴として、雄のみが角を持ち、毎年生え変わります。角の成長は男性ホルモンであるテストステロンによって制御されています。

北アメリカ産のワピチは、背筋や尻、尾が淡い色をしています。夏毛は濃い黄褐色、冬毛は薄い黄白色で、冬毛になると首に濃い色のたてがみのような毛が生えます。角は一日あたり約2.5センチメートル伸び、最終的には全長1.2メートル、重さ18キログラム程度になります。

生息地

ワピチは、東北アジアと北アメリカに生息しています。北アメリカ大陸のワピチは、更新世の氷期にベー[[リング地峡]]を渡って移動してきたと考えられています。現在では、ツンドラや砂漠、メキシコ湾岸の沼地を除くほとんどの地域に生息しています。東北アジアでは、山岳地帯に生息しています。中国や朝鮮半島には、小型の亜種が生息しています。

生態

ワピチは5～6月に1頭（まれに2頭）の仔を産みます。生まれた仔はクリーム色の斑点があり、夏までに消えます。仔は数日後、母親と雌の群れに合流します。7ヶ月頃には草を食べ始めます。雄の仔は約1年群れに留まり、その後独立します。雌雄とも1.5歳頃から繁殖能力を持ちますが、実際には雌は2.5歳以降、雄は4～5歳以降でないと繁殖に成功しにくいです。

繁殖期は8～10月で、雄は匂いを出し、他の雄と競争します。競争に勝った雄が、雌の群れと行動を共にするようになります。

分類

以前は、ワピチとヨーロッパアカシカは同一種とされていたこともありましたが、近年の遺伝子解析の結果、ワピチはニホンジカと遺伝的に近いことが明らかになり、別種とされることが多くなっています。

亜種

ワピチにはいくつかの亜種がいます。北アメリカには、Roosevelt's Elk、Tule Elk、Manitoban Elk、Rocky Mountain Elkなど多くの亜種がいます。東部と南西部にはかつて生息していましたが、絶滅した亜種もいます。東アジアには、Siberian Wapiti、Manchurian Wapiti、Alashan Wapitiなど多くの亜種がいます。

遺伝子研究

ミトコンドリアDNAの解析により、ワピチはニホンジカと遺伝的に近縁であることが確認されています。

人間との関係

ワピチは、古くから人間の文化と深く関わってきました。アジアの新石器時代の岩絵や、アメリカインディアンの文化にもワピチは登場します。狩猟対象であり、肉は食用とされ、角は漢方薬や工芸品にも利用されています。現代でも、皮革製品や医薬品などに利用されています。しかし、ブルセラ症の感染源となる可能性もあり、その対策も進められています。

ロッキー山脈ワピチはユタ州の州獣に指定されています。コロラド州エステスパークでは、街中にワピチが出没することもあります。

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